連載:全国将棋道場巡り 2016年10月12日
将棋を通じて礼儀作法の大切さを伝える〜東新宿こども将棋教室〜
今年9月にオープンしたばかりの「東新宿こども将棋教室」にやってきました。同教室を運営するのは、現役のプロ棋士としてもご活躍される藤倉勇樹五段(以下藤倉五段)です。藤倉五段は同スクール開校前にも、埼玉県にある「志木こども将棋教室」を立ち上げ、たくさんの子どもたちに将棋の指導をしてきました。今回の「全国道場巡り」では、そんな藤倉五段に、子どもたちに将棋を教える際に気を配っていること、工夫されていることについて詳しくお伺いしました。
教え子がライバルに
中倉彰子(以下彰子):「志木に続き、東新宿でも将棋教室をオープンしましたね。どちらも子どもを対象にした教室ですが、もともと子どもの指導に興味があったのですか?」
藤倉五段:「はい。私も妻も子ども好きでして。奨励会時代を合わせると数千人の子どもを指導してきたと思います。将棋連盟の子供スクール講師の任期が終了した後に、自分の教室を持ちたいと考えるようになりました。」
彰子:「藤倉五段の教え子の中からプロ棋士が数名誕生したと伺っています。」
藤倉五段:「将棋連盟の子どもスクールで7、8年講師をしていたのですが、その頃を含めると佐々木勇気五段、高見泰地五段、伊藤沙恵女流初段など現在プロ棋士として活躍しています。かつての教え子がライバルとなり、対局ができることをとても嬉しく思う反面、みんな強いので困ってしまいます、笑」
彰子:「プロ棋士になった子は他の子どもたちと何か違う点はありましたか?」
藤倉五段:「負けず嫌いなのはもちろんですが、将棋に対する向き合い方が違うのだと思います。プロになる子は対局姿勢がとても良く、強くなる為にひたむきです。問題点を修正し、教室ごとに成長しているのが一緒に指していて伝わってきます。」
勝ち負けよりも大切な礼儀作法
彰子:「子どもを指導するときはやはり、プロ棋士になれるように子どもたちに強くなってもらうことを意識しますか?」
藤倉五段:「もちろん教え子の中からプロ棋士が誕生するのはとても誇らしいことです。しかし、私は将棋を指す上で重要なことは勝ち負けだけではないと考えています。私が子どもに将棋を教えるにあたって1番大切にしていること、それは礼儀作法です。特に挨拶はしっかりさせるように心がけています。将棋教室に来た時や帰る時、声が小さかったりちゃんと言えなかったりするとちゃんとできるまでやってもらいます。対局中のお願いしますや負けました、ありがとうございましたも同様ですね。」
彰子:「先ほども藤倉五段と女の子が対局してるのを見ていたのですが、藤倉五段自身の『負けました』の声が大きかったのが印象的でした。自ら子どもたちにお手本を示しているのですね。中には何度注意してもいうことを聞かない子もいると思うのですが」
藤倉五段:「私普段は温厚なのですが、実は怒ると凄く怖いんですよ、笑。子どもって案外賢いですからね。人を見て自分がどう出るのか決めるところがあるんだと思います。ですので私の場合は、はじめの挨拶の時にうるさかったら始めないとか、『あと○回負けたら負けだよ』と言ったり、駒をちゃんとしまわない子には再び駒を出してからしまい直してもらったりしています。」
子どものやる気のために「粘らず負ける」
彰子:「藤倉五段の将棋教室にはどれくらいの棋力の子どもが集まりますか?」
藤倉五段:「東新宿はまだ始まったばかりなので、初心者、初級の子たちばかりですが、志木は生徒の数も多いので棋力に合わせて5つのクラスに分かれています。うちの場合は、初心者クラスがと金や成駒が理解できて、1手詰めに対応できるくらい、1番上のSクラスが初段初級(編集註:2016/10/14 12:44まで誤って「初級」と記載されていました。申し訳ございません)・二段レベルです。」
彰子:「子どもたちに棋力の差があると指導が難しくないですか?」
藤倉五段:「もともと志木の教室は4つのクラス分けだったのですが、棋力の差がありすぎるということで5つに分けました。今は講師3人で5つのクラスを回しているのですが、現在のところ、私が5つのクラスのうち2つのクラスを担当し、残り2名の講師がそれぞれ1クラスずつ、残り1クラスが自習となっています。棋力の差による指導の難しさは私も感じるところなのですか、最近新しい試みとして1番上のクラスではディスカッション形式や図面を見ながらの講義を取りいれています。先手が勝ちか後手が勝ちかなどを話し合ってもらったりするのですが、これがけっこう上手くいっているように思います。」
彰子:「控室の検討みたいなイメージでしょうか? とてもおもしろそうですね。ちなみにいつつでは、まだ1度も将棋を指したことのない子どもたちも対象になるのですが、まだ将棋を好きになる前の子どもたちに将棋を続けてもらうための工夫って何かありますか?」
藤倉五段:「1回目の対局は勝って2回目の対局で負けてあげるということでしょうか。昔は負け方が分からなくて本当に苦労しました。特に奨励会時代は8割ぐらい勝ってしまっていたので、今思い返せば本当にひどい指導だったと反省しています。しかしある日、時間がなくて粘らないで負けるということをしたんですね。先ほど私は負け方が分からないと申し上げましたが、この時初めて『無駄に粘らずにこうやって負けてあげればいいんだ』と気がつきました。それ以来子どもたちの性格に合わせて今負けるべきか勝つべきかの判断をしています。わざと負けるということに抵抗を持つ方もいらっしゃるかもしれませんが、せっかく将棋を始めた子どもたちのやる気を削いでしまうのは避けたいところです。無論、負けた悔しさをバネにどんどん実力を伸ばす子たちもいます。私はそういう子たちには全力で臨むようにしています。なので私の場合、初戦は8割バッター2戦目は2割バッターといったところでしょうか」
彰子:「過去のいつつブログでも『上手(うわて)が上手(じょうず)に負ける方法』というコンテンツが反響を呼びました。みんな子どもの心を折らないために色んな工夫をされているんですね。」
藤倉五段:「他にもうちの教室では昇段ごとに将棋の駒キーホルダーをあげて子どものモチベーションを維持するように努めています。種類は成駒も含めて全部で12種類。なぜかと金のキーホルダーが人気ですよ。」
彰子:「と金が人気なのはちょっと意外でしたが、将棋好きの子はきっと全種類集めたくなっちゃいますね。ところで、今日も藤倉五段はピシッとスーツを着ていらっしゃるのですが、服装にはいつも気を遣っているのですか?」
保護者が期待する子どものお手本として
藤倉五段:「将棋教室をオープンした頃はノーネクタイだったんですが、なんだか中途半端な気がして。それに、将棋好きの子どもの親御さんはやっぱり将棋好きの方が多いんですよね。自分の子どもだけではなく私の対局を気にしてくれたり、熱心に応援してくださったりするので、保護者の方とお話しする機会もけっこう多いんです。ですから親御さんと話をするときに失礼のない格好でということは心掛けています。」
彰子:「先ほども、東新宿こども将棋教室に通っているお子さんのパパさんに少しお話を聞きました。小6の女の子と小4の男の子が通っているみたいなのですが、礼儀作法とか自分で教えてしまうと変な癖がつきそうなので、プロの先生に教えてもらえるところを探していたとおっしゃっていました。きっとプロ棋士というのは棋力以外の部分でも子どもたちのお手本となることが求められるのですね。」
編集後記
藤倉五段とは、私がNHK将棋番組に出演していたときに一緒にお仕事をさせていただいてました。それからしばらくお会いしていなかったのですが、今回本当に久しぶりにお話することができました。
藤倉五段の「昔は負けることに抵抗があった」という言葉に、棋士としての本能を垣間みたような気がします。しかしながら、その後、子どもたちがどうやったら将棋を好きになり、また強くなっていくかを考え試行錯誤し、「負けるコツ」を会得するなど持ち前の明るさで楽しく指導し、子どもたちにとってますますいい講師になっていく姿を私も見習いたいと思いました。
教室データ
教室名称 | 東新宿こども将棋教室 |
場所 | 東京都新宿区新宿6-14-1 新宿文化センター |
営業日 |
原則として第一・第三土曜日 |
コース | Aコース13:00~14:45 Bコース15:00~16:45 |
対象 | 年長以上の幼稚園児、小学生 |
月謝 | 6,000円(税込) |
藤倉五段よりプレゼント
そして、今回なんと藤倉五段より3冊も書籍をプレゼントしていただきました。ありがとうございます(^ ^)希望者に抽選でプレゼントしたいと思いますので、書籍をご希望される方は以下の応募要領に従ってお申込みください。
『将棋の手筋 基本のき』
藤倉五段ご自身が、道場や教室の級位者が実際に指している将棋を見て、局面を選ばれたそうです! その場でパッとみて
局面をすぐ頭に入ってしまうところも、プロならではですよね。創作ではなくすべて実際に指された局面を題材にしているので、初級者級位者が躓くポイントがたくさんです。詰将棋、実戦対局の他に、将棋の勉強法としてこのような「手筋を覚える」というのを取り入れると棋力向上につながると思います。
『美濃囲いを極める 77の手筋』
美濃囲いの囲い方や端攻めからの受け方などのポイントが77の手筋としてまとめられています。私も美濃囲いがこんなに奥が深いとは!と驚きました。最後のほうは実戦系がつまっているので、実戦対局に活かせると思います。
『よくわかる四間飛車』
将棋ファンの間でも人気の四間飛車の戦法をわかりやすく解説しています。私も子どもに最初に教えたのは、「四間飛車」でした。ただ四間飛車は、相手の攻めに対応しないといけません。この本では「居飛車側が囲わずに棒銀で攻めてきたらどうするか」がまず解説されています。その後、急戦、右四間飛車、左美濃、居飛車穴熊と、すべての対応策が紹介されています。実は私も大人向けの指導対局の際に、この本を教材代わりに参考にしていました。難解な変化は載っていないので、「定跡を一つ覚えたいな」と思われている方にピッタリだと思います。
お申込みフォーム
締め切らせていただきました。たくさんのご応募ありがとうございました。
他にもいつつブログでは、全国の様々な将棋教室・道場を訪れています。ご興味あれば、ぜひご一読ください(^ ^)
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