将棋を学ぶ 2018年3月19日
勝負の世界に出来るもう一つの家族。将棋界の師弟関係とは
最近、藤井聡太六段と杉本昌隆七段の師弟対決が話題になりましたよね。
実は、プロ棋士を目指すには、藤井六段と杉本七段のように、必ず師弟関係というものを結ぶ必要があります。※1
師弟関係とは、もちろん師匠と弟子との関係を指しますが、将棋で師弟関係を結ぶ場合、師匠は必ずプロ棋士でなくてはならず、また、頼めば誰でも弟子になれるという訳ではなく、将棋教室や将棋道場の講師の推薦を受け、師匠となるプロ棋士の先生に「この子はプロ棋士になるだけの資質がある」と認められてはじめて弟子になることができます。
将棋教室や将棋イベントの時に、親御さんからよく「将棋の師匠とはコーチのようなものですか?」という質問を受けるのですが、コーチとは違います。師匠というのは将棋界での親みたいな存在、というほうが近いと思います。
ですので、私も、若手の棋士や女流棋士と初めて会って話すときなど「お師匠さんは誰ですか?」と質問することも多いです。そこから、兄弟子や姉弟子に誰がいて、みたいな話題になったり、師匠が例えば北海道の方ですと、お弟子も同じ北海道出身ということも多いので、出身地の話題になったりします。
師匠との思い出
私の師匠は堀口弘治七段です。
私が堀口七段に初めてお会いしたのは高校3年生のとき。地元府中道場の席主の先生に紹介していただきました。少しお話をして、「はい。いいですよ」、という感じだったと思います。このとき、とても緊張していたのを今でもよく覚えています。
将棋の場合、一概に「師弟関係」といっても、その在り方は本当に様々です。
昔は住み込みで師匠の家に住み、掃除家事を手伝うという師弟関係もありましたが、現在は住み込みの弟子はほぼ無いと思います。
他には、自ら研究会を催し積極的に弟子と将棋を指す師匠もいれば、その一方で、自分の癖が弟子に悪い影響があるのではと慮って弟子とは一切指さないという師匠もいます。また、昔は、「師匠が将棋を教えるのは最初と最後だけ」という話もきいたことがありました。これは、師匠が弟子と将棋を指すのは、入会のための棋力診断と、プロになれなかったときの最後の思い出としての2回だけだったという謂れからきています。さらに、弟子の方からしてみても、自分の好きな戦法を極めるために、わざわざその戦法を得意とする棋士のもとに師匠になってもらうようお願いしに行くということもあります。
堀口門下では、私が1番弟子ということもあり、どのように弟子である私に接して行くべきなのか悩んだことかと思うのですが、本当にいろいろと気を配っていただきました。
当時師匠が将棋連盟の理事職も担っており、多忙だったにもかかわらず、研究会も開いてもらい、師匠から将棋もたくさん教わりました。また、将棋以外でもお正月などには、師匠のご自宅にもお招きいただき、奥さまや可愛い娘さんたち師匠のご家族にも大変よくしていただきました。毎回遊びに行くのが楽しみでした。
特に師匠の奥様はとても明るい方で、当時の私の恋バナの悩みまで相談していました、笑。
先日、師匠の娘さんたちが、立派な社会人・もう一人は大学生になったと聞いて、月日が立つのは早いものだなぁとしみじみ感じました。
私が師匠のもとに入門して以来、妹の宏美(中倉宏美女流二段)、そして女流棋士の山口恵梨子(女流二段)さん・貞升南(女流初段)さんも師匠のもとに弟子入りし、私にも姉妹弟子ができました。
昨年、師匠が引退された時に、一門で集合写真を撮りました。お互いの近況を報告したり、師匠から将棋の歴史のお話や師匠が考案したはさみ将棋を実際にみんなで遊んでみたりと、楽しい時間でした。
師弟関係は将棋の家族
将棋は1人で戦う世界ですし、コーチもいません。そんな中、家族の応援の他にも、何かあれば相談したり、手放しで活躍を喜んでくれたりする師匠の存在は、とても心強いものですし、精神的な支えにもなります。
将棋の師弟関係は、例えば、弟子の対局料の一部が師匠や一門に入るといったようなシステムはありません。弟子を取ることで金銭的なメリットは一切ありません。ではなぜ取るかというと、師匠にも師匠がいたわけなので、上から受けた恩を下に返す、という流れがあります。師匠は弟子をとると、心配ばかりです。私も師匠には心配ばかりかけてしまったような気がします。
人間関係が希薄になった昨今ではありますが、将棋の世界は、厳しい勝負の世界ではあると同時に、一方で家族のようなつながりもまたあるような気がします。
師匠と弟子。
それは私にとってそれは温かい縁であり、将棋を通して得ることのできた人生の財産です。
他にも将棋をやっている中で、得るものは多くあります。将棋をやっていて良かったことについての記事もありますので、よければ覗いてみてくださいね。
※注1 女流棋士は、場合によっては師匠がいないこともあります。
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