連載:全国将棋道場巡り 2019年2月8日
継続のコツはやりたいことをやりたいだけ〜アキノクラブ〜
日本全国津々浦々、女流棋士中倉彰子といつつのスタッフが全国の将棋道場・将棋教室を訪れる「全国将棋道場巡り」。今回は大阪府茨木市にある将棋教室・将棋道場アキノクラブにやってきました。なお、お話をうかがったのは、同教室の代表であると同時に、現役のプロ棋士として最前線でもご活躍される宮本広志五段(以下宮本五段)です。現役のプロ棋士と将棋教室の先生という2足のわらじを履いての日々の活動、強くなるための秘訣などについて詳しく語っていただきました。
背中を押してくれた父のサポート
–アキノクラブを引き継がれたきっかけは何ですか?
宮本五段:奨励会時代からなので10年位になるのですが、もともと月1くらいの頻度でアキノクラブに将棋の指導に来ていました。当時の席主さんが体調を崩された折に、教室運営の後任をお願いされ、2017年のリニューアルのタイミングで引き継ぐことになりました。
–現役のプロ棋士としてのご活動がある中で、将棋教室運営というのはとても大変そうな気がするのですが。
宮本五段:はい。ですので、将棋教室後任の打診は何度か頂いていたものの、実はずっとお断りしていたんです。日々の研究など、プロ棋士としての活動に専念し、もっと時間を割きたい中での教室運営は難しいと考えていました。
–どのタイミングで気が変わったのでしょうか?
宮本五段:ちょうど私の父が定年退職を迎え、時間ができるようになりました。決して強かったわけではないですが、私も元々父に教えられて将棋を覚えたので、もし良かったら将棋教室を手伝ってもらえないかと聞いてみたところ、了承してくれました。一人で将棋教室を運営するのは大変だと思っていたのですが、父がサポートしてくれるなら何とかなるだろうと、最終的にはアキノクラブを引き受けることにしました。
–親子二人三脚でやられているんですね。実際に将棋教室を運営してみていかがですか?
宮本五段:予想していた通り大変です。慣れないことばかりなので、想定よりも時間がかかってしまったり、疲れることも多いです。でも、悪いことばっかりじゃなくて、「対局見たよ」と声をかけてもらえるようになりました。応援してくれる人がいることを実感できるのが教室を始めて1番良かったことです。
超初心者の指導=「将棋を教える」ではなく「将棋に興味を持ってもらう」
–将棋教室の運営は大変なことも多いですが、その大変さを超えるやりがいもたくさんあると思います。ちなみに、今アキノクラブにはどれくらいのお子さんがいらっしゃるのでしょうか。
宮本五段:土日に来ているお子さんが15〜16人でしょうか。初心者のお子さんもいれば、段位者もいます。
–そういえば、来る前にHPを拝見させて頂いたのですが、初心者を一括りにする教室が多い中で、アキノクラブでは初心者と超初心者で分けていますよね。
宮本五段:はい。ルール知っていて将棋を指せるお子さんとこれから駒の動かし方を覚えるというお子さんでは、全然違いますからね。
–具体的にどう違うのでしょうか?
宮本五段:超初心者の子どもたちに対しては、将棋に興味を持ってもらうような指導に重きを置いています。例えば、これから将棋の駒の動かし方を覚えるという未就学のお子さんに、大盤を使って将棋の解説をしてもチンプンカンプンですよね。それに、解説を聞いてくれたとしても集中力は15分が限界。レッスンの途中で将棋に飽きてしまうと思います。
ですので、将棋に飽きさせないためにも、超初心者の子どもたちには将棋駒に触れてもらいながら、遊んでもらうということを大切にしています。
–いつつでも、体験会や親子イベントなど、初心者を対象としているときは、簡単なゲームから将棋に親しんでもらえるように工夫しています。
継続の秘訣は無理して指さないこと
–話が変わるのですが、宮本五段の28歳での三段リーグを勝ち抜いてのプロ入りは、勝ち越し延長の規定ができた1994年以降の最年長記録だと聞いています。プロ棋士になられるまでに、色んな苦悩やプレッシャーがあったかと思うのですが、途中で諦めずに将棋を続けてこれた理由はどこにありますか。
宮本五段:私には将棋しかなかったからです。ただ、奨励会時代、ずっと将棋をやっていたかというと実はそうではなくて、将棋を指したくないときは無理に将棋をせず、別のことをしていました。そうすれば、自ずと将棋への情熱が戻ってくるので、そしたらまた将棋を指すということを繰り返していました。年齢制限が迫った奨励会員は悲壮感があると思われがちなんですが、私の場合、やりたいことをやりたいだけやってきただけなので意外にそうでもなかったんですよ。
ちなみに、子どもたちの指導をするときも、子どもたちのやる気スイッチが入るポイントを見極めるように意識しています。
編集後記
現役のプロ棋士でもある宮本五段に強くなるための秘訣を聞いてみたところ、強くなる秘訣ではないが、子どもが伸びるか伸びないかは、例えば、同じ12回でも、月に1回1年かけて学ぶよりも12日連続で将棋を指した方がいいといった具合に、子どもたちが将棋に触れる密度に関係があると教えていただきました。つまり、将棋教室や道場としては、子どもたちが日常的に将棋に触れられるような環境を整えてあげることが大切なわけですが、習い事を複数掛け持ちすることも少なくなく、子どもたちがますます忙しくなる昨今では、たとえ毎日道場を開けていたとしても、止むを得ず将棋を辞めてしまうことも少なくありません。
そんな中、取材当日は、宮本五段のレッスンも見学させていただいたのですが、1時間半という長丁場だったにも関わらず、午後からの道場にも参加するという子どもたちが複数人いました。
「現役のプロ棋士から直接指導が受けれるなんてとても贅沢な環境ですよね」との私の言葉に、「子どもたちはそんなことちっとも思ってないですよ、笑」と返事をする宮本五段。確かにレッスン前の様子を見ていると、まるでお友達のように宮本五段に話かけていました。しかし、いざレッスンが始まると、指導対局での先生のアドバイスを聞いて一生懸命に考えたり、自分の指した手について説明したり、宮本五段をとても頼りにしているという様子がうかがえました。
将棋を指す子どもたちにとって、現役で活躍するプロ棋士というのは雲の上の憧れの存在だと思います。しかしながら、そんなプロ棋士が雲の上から降りて来て、まるで頼れるお兄さんのように優しく、そして分かりやすく将棋を教えてくれる将棋教室は、子どもたちにとって、どの習い事よりも価値のあるものなんだろうなぁと思いました。
道場名称 | 将棋道場・将棋教室 アキノクラブ |
場所 | 大阪府茨木市本町1番3号 2F(本通商店街内) |
営業時間 |
13:00〜20:00 詳細はHPにて要確認 |
定休日 | 毎週月曜日火曜日 |
いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。 将棋道場・将棋教室 アキノクラブもご登録いただいています(^ ^)
他にもいつつブログでは、様々な将棋道場を紹介しています。ご興味あれば、ぜひご一読ください(^ ^)
関連記事
いつつへのお仕事の依頼やご相談、お問合せなどにつきましては、
こちらからお問い合わせください。