連載:全国将棋道場巡り 2020年4月3日
子どもたちに「本気になる」体験を〜甲斐日向将棋教室〜
日本全国津々浦々、女流棋士中倉彰子といつつのスタッフが全国の将棋道場・将棋教室を訪れる「全国将棋道場巡り」。今回は東京都台東区にある甲斐日向将棋教室で、代表を務める甲斐日向さん(以後甲斐さん)にインタビューしました。甲斐さんといえば、長年NHK杯将棋トーナメントで記録係として出演されて、将棋ファンの皆さんにはおなじみですよね。
好きな将棋を仕事に
–将棋教室をはじめたきっかけはなんですか?
甲斐さん:子どもの頃に通っていた道場の席主から、将棋教室しないの?と声をかけられたことがきっかけです。その時はちょうど奨励会退会の挨拶をしに行ったのですが、将棋が好きな気持ちに変わりはなかったので、シンプルに将棋を仕事にできたらいいなと思いました。ここ、御徒町の校舎は、大人が趣味で将棋を楽しむコースと有段者コースの2つがあり、今年の2月にオープンしたばかりの光円寺の校舎では、かねてからやりたいと思っていた子ども向けの初心者コースを設けました。
–なぜ、子ども向けの初心者コースを開設したかったのですか?
甲斐さん:子どもにとって、将棋を習いごとにするのはいいことだと考えているからです。実は私自身、小さな頃はかなり落ち着きがなかったのですが、将棋をやるようになってからじっと座っていられるようになりました。また、必然と大人や歳上の方とのコミュニケーションの機会が増えるので、年齢の割には会話の受け応えなどがしっかりしたように思います。
甲斐さん:それに、人との縁が繋がりやすいというのもいいことの1つだと思います。将棋には、1度離れてしまってもまた戻ってくる人が多いという傾向があり、そのため、子どもの頃一緒に指していた人と時を越えて将棋イベントや将棋大会で再会することも少なくありません。
1番良い手を指さなくていい
–ルールが普遍だし、いくつになっても楽しめる競技なので再開しやすのかもしれないですね。子どもを指導する際に意識していることはありますか?
甲斐さん:どうやったら将棋を好きになれるか、それだけを考えています。
–具体的にはどのようなことをされていますか?
甲斐さん:指導対局の際は反則以外で待ったをさせることはありません。例えば、子どもが10番目良い手を指したとして、たとえ最善手じゃなくても、数えきれないほど手がある中で、10番目を選べたらそれはすごいことだと思います。もっと良い手があるといって水を差すより、自由に駒を動かして、それを褒めてもらった方が子どもにとっても楽しいんじゃないかなと思います。あと、感想戦の時は、必ず囲いだったり手筋だったり、新しい何かを教えるように心がけています。新しいことを吸収する時の子どもの瞳はキラキラしてますよね。
初心者のつまずきポイントを改めて学習
–逆に子どもの指導で難しいと感じる点はありますか?
甲斐さん:私は父から将棋を教わったのが最初で、そこから、気づけばある程度強くなっていたので、正直なところ、自分がどんな風に成長・上達したのかの過程を覚えていないんです。
なので、初心者の方がどこでつまずいて、どうやってそのつまずきポイントにアプローチするのかを、今指導をしながら勉強しなおしているところです。また、自分が上手く説明した気になっているだけで、実際には生徒にとって分からないものになっていることはないか、は常に気に掛けるようにしています。そのため、言葉を短く削り、できるだけ端的に分かりやすく伝えるといった工夫はいつでも心がけています。
–いつつにも元奨励会の講師がいるのですが、話を聞いてみると、将棋教室時代に、つまずいたことがほぼなかったようです。いつつにとっても、初心者の子どもたちが一体どこでどのようにつまずくのかは重要なテーマです。
本気になる体験を子どもたちに
–それにしても、奨励会にはすごい人たちが集まっているんですね。
甲斐さん:確かに、成長速度という点において、凄まじかったように思います。奨励会に入会してしばらくは、まわりに天才ばかりいる中で自分だけが凡人だと実感させられました。
–実は前述のいつつ講師と昨日甲斐さんの話をしていたのですが、甲斐さんは三段リーグの中でも、相当強かったと聞きました。自分だけが凡人という中で、大変な苦労と努力があってこそだと思うのですが、それでも、将棋を続けて来たのはなぜですか?
甲斐さん:理由は説明できないけれど、それだけ将棋が好きだったからだと思います。これまで、将棋を通じてたくさんのことを得ましたが、「本気になれたこと」「大切な仲間ができたこと」の二つは、私にとって特別大切なものです。将棋教室を運営するようになってからまだ間もないですが、甲斐日向将棋教室も、子どもたちがこのような本気の体験ができるような場所にしたいと思っています。
編集後期
取材当日は、御徒町校の有段者コースの前にお伺いさせていただいたのですが、レッスンが始まる時刻よりも少し早めに、お子さんがちらほらやってきました。なんでも、有段者コースはレッスンが始まる15分前に来てもらい、みんなで駒磨きをするそうです。印象的だったのは、まだレッスンが開始されていないにもかかわらず、お子さんが誰も私語をせず黙々と駒磨きに打ち込んでいたことです。
「駒磨きで私語をしたら意味がない」と話す甲斐さんの言葉には、将棋道具を大切にするということはもちろん、駒磨きをすることで、集中力を高め、レッスンにも緊張感を持って臨むことができるという意味が込められているようでした。
ここで話が変わるのですが、この記事の作成後に甲斐さんが興味深い取組みをされていたので、追加取材させていただいた内容をここで紹介したいと思います。
その取組とは「電童戦」といわれるオンラインでの子ども将棋大会です。新型コロナウイルスの影響で次々と将棋イベントや将棋大会が中止となる中、なんとかして子どもたちが楽しめる機会をつくりたいという思い出開催を決意したそうです。
自宅から参加できる将棋大会は、告知当初から注目を集め、募集定員48名のところ集まった応募者数は約100名。各クラス決勝の模様の生配信にトロフィーなど豪華な優勝賞品と盛りだくさんの内容で、ご応募いただいたお子さんの保護者の方から、お礼の言葉をいただくこともあったそうです。
オンラインでの将棋大会の取組は甲斐さん自身もはじめてのことだったそうですが、一度開催すると決めてからの行動力と実行力に、改めて、なんとかこの取組みを成功させたい、こんな状況でも子どもたちに将棋を楽しんでほしいという熱い思いが伝わってくるようでした。
さて、本文中でも少し触れましたが、甲斐日向将棋教室の港区光円寺校は今年2月にOPENしたばかり。400年続く歴史あるお寺を見て、将棋×お寺のインスピレーションを受けた甲斐さんが住職さんに声をかけたことがきっかけのようですが、写真を拝見すると畳の上できっちり正座をして指せるようになっており、将棋を指すのにとても適した環境だなぁと思いました。
御徒町校も含めて、まだ2年弱と将棋教室としては、動き出したばかりの甲斐日向将棋教室ですが、甲斐さん自身の指導歴は10年と長く、今回お話する中で、指導者として、柔軟だけども芯のブレないポリシーと、何より、将棋に対する情熱をお持ちだと感じました。
教室案内
道場名称 | 甲斐日向将棋教室 |
場所 | 【御徒町将棋センター】 東京都台東区上野3-21-10 宝島ビル5階 【光円寺】 東京都港区虎ノ門3丁目23-10 |
営業時間 | 詳細はHPにて要確認 |
いつつHPに内にある将棋教室・道場検索では全国の将棋教室・道場を紹介しています。 甲斐日向将棋教室もご登録いただいています(^ ^)
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