株式会社いつつ

将棋を楽しむ 2018年12月12日

歴史を染める印染〜3代続く京の老舗染物店スギシタ

金本 奈絵

日本全国津々浦々、日本伝統文化の匠の技をご紹介する「日本伝統文化のいつつ星を探して」シリーズ。今回はいつつの布製将棋盤「どこたま(どこでも将棋、たまには風呂敷)」の制作にご協力してくれた、スギシタ有限会社(京都府京都市)にやってきました。

取材を受けてくれたのは、同社代表の杉下永次さん(以下杉下さん)。印染の伝統や技術、「どこたま」の制作にあたってのこだわりや、伝統を受け継ぐということについて詳しくお話しをうかがいました。

印染「杉下」の3代目、杉下永次さん
印染「杉下」の3代目、杉下永次さん

室町時代から続く染めの技術と職人のこだわり

印染について教えてください

杉下さん:「印染」と書いて「しるしぞめ」と読みます。印染とは染め物の種類の1つで、古くは室町時代まで遡ります。のれんや手ぬぐい、風呂敷、はんてんなど、その名の通り家紋などの何かを象徴する印・マークを染めることからそう呼ばれるようになりました。遠くからみても一目で分かるようにくっきりと模様を出すことが特徴的です。

今回制作していただいた、いつつの新布製将棋盤「どこたま」も印染ですよね

杉下さん:はい。印染の中でも捺染という手法で染め上げました。捺染とは、染料と糊を混ぜて印捺する手法です。作業行程としては、まず、データ作成した布製将棋盤のデザインを製版した型枠を生地の上にセット。その後に、染料をとかした糊を流し込みスキージというヘラで1色1色順に捺染します。捺染後の生地を乾燥させ、その生地を蒸し固着し、余分な染料を水洗してから、乾かします。乾いた生地を裁断し、1枚1枚丁寧に縫製して仕上げます。

いつつ布製将棋盤制作の様子
いつつ布製将棋盤制作の様子

すごく手が込んでいるんですね。杉下さんの職人としてのこだわりはどこにありますか?

杉下さん:先ほども申し上げたように、印染は染物の中でも、くっきりと模様を出すことが特徴です。もちろん、技術的にはまわりとの馴染ますためにぼかしたように染め上げることができるのですが、うちではパキッとした鮮やかな色彩に仕上げることが多いですね。そして、この染め上がりの色彩こそがスギシタがもっともこだわる部分です。通常、お客様の染色のオーダーを受けるとき、色見本などでカラーの指定をいただくことが多いのですが、私の場合、色見本色そのままで染め上げるということは決してありません。

なぜなら、色見本の見本はイメージが近いというだけであくまでも見本であり、お客様の頭の中に思い描かれるものとは微妙に異なってくるからです。私は、事前の打ち合わせの段階で、商品には作り手のどんな思いが込められているのか、また、商品が使われることで人はどんな気持ちになるのかなどを綿密に打ち合わせ、お客様の頭の中にある、その商品の「本当の色」を忠実に表現することを大切にしています。色見本の色でそのまま染色してしまうと、手染めであるにもかかわらずなんとも人口的なもの仕上がってしまいますが、そこに、お客さんの思いやこだわりとしてのニュアンスが加わることで、見違えるくらいに生き生きとした、味のある仕上がりになります。

今回、4種類の布製将棋盤を制作していただいたのですが、どれも美しい仕上がりになってとても感動しました。ちなみに、これらの布製将棋盤では、具体的に私たちの色をどのようにアレンジしていただいたのでしょう。

杉下さん:今回は4種類ご依頼いただいたので、4色のバランスを考えました。特にこだわったのがカニ囲いの赤い色です。もちろん、この色単色での染めでも色が映えている必要があるのですが、この色は左馬、千鳥銀でも差し色として使用されてますので、何度も色出しをしました。この赤い色が映えるように、淡い色彩で緑色・桃色の布製将棋盤を染め、単色の紺色の布盤は、赤のトーンに合わせました。

いつつの思いを表現した色で染められる布製将棋盤
いつつの思いを表現した色で染められる布製将棋盤

進化を続けながら受け継がれていくもの

お話いただいたような、染めの技術、色へのこだわりというのは先代から代々受け継がれてきたものだと思います。

杉下さん:そうですね。今回いつつさんから布製将棋盤のお話をいただいたとき、単純におもしろそうと思ったのはもちろんのこと、将棋も印染と同じようにはるか昔から受け継がれる日本の伝統文化であるということに共感を覚えました。

またスギシタは初代が創業して私で3代目。京都という歴史のあるまちで創業して、印染一筋で80年やっきました。印染とは、そもそも、弟子が独立することを意味する「のれん分け」という言葉に代表されるように、お祭りののぼりやはんてんといった「代々受け継がれるもの」を染める手法です。私も、後世にこの「歴史の染物」を伝承することで、印染の歴史の1ページを紡いでいけたらと思っています。

将棋界でも、現在後世にその文化を受け継ぐという動きかけが活発に行われていますが、一筋縄には行かないことも多いように感じます。

杉下さん:80年続く職人の手染め屋さんというと、例えば、伝統的な模様を直接生地に手書きで書き込んでいたりというイメージをお持ちの方もいるかもしれません。もちろんスギシタの作業の中でも、こうした昔ながらの手法が今なお続いている部分はたくさんありますが、デザインを型版に落としたり、今回の布製将棋盤はいつつさんのデザインで行いましたが、アートディレクションのできるデザイナーのスタッフを自社で採用したりなど、お客様の要望や時代のニーズにマッチした製品を作る工夫をしています。矛盾しているようですが、伝統を守るには、技術を伝承していくだけではなく、そこに時代の流れというものがプラスされていく必要があるのではないでしょうか。つまり、時代に合わせて革新を続けていくことが大切だと思います。

杉下さんオリジナルの商品を拝見しましたが、どれも伝統的な手法に乗っ取って制作されたものであるにもかかわらず古臭さが全くなく、モダンで、むしろ新しさも感じました。ちなみに、今回スギシタさんで制作していただいた布製将棋盤も、伝統文化としての将棋に、「デザイン性」という現代のニーズを反映したいつつの革新へのチャレンジです。この布製将棋盤により、伝統文化としての将棋の奥深さを受け継ぐとともに、今の時代の子どもたちにとっての将棋の敷居をぐんと低くして、よりたくさんの子どもたちに将棋を楽しんでもらえるといいなと思います。

スギシタさんに染めていただいた、いつつの風呂敷将棋盤「どこたま(どこでも将棋、たまには風呂敷)」はこちらです(^ ^)

名称 スギシタ有限会社
場所 〒600-8390 京都市下京区猪熊通四条下る松本町 269
コンタクト

http://shirushizome.co.jp/toi/

将棋のどうぐ

どこたま(風呂敷将棋盤 )カニ囲い

3,036円(税込)

商品番号:136148047

この記事の執筆者金本 奈絵

株式会社いつつ広報宣伝部所属。住宅系専門紙の編集記者を経て現在に至る。

関連記事

いつつへのお仕事の依頼やご相談、お問合せなどにつきましては、
こちらからお問い合わせください。

メールでお問い合わせ