株式会社いつつ

将棋を教える 2016年7月26日

女の子に将棋を教えるときに中倉彰子が心掛ける5つのこと

中倉 彰子

「将棋は男の子がするもの」というイメージがあるかもしれません。

確かに、いつつ子ども教室の生徒の8割は男の子です。

しかし、現在では「3月のライオン」という漫画などの影響により少しずつ、将棋に興味を持ってくれる女の子が増えてきました。またネットで気軽に将棋番組を観ることことができたりと、イケメン棋士たちもクローズアップされたりと、将棋が気軽に楽しめるようになってきたので、将棋女子も増えてきました。

将棋イベントでも女の子がたくさん参加してくれます。
将棋イベントでも女の子がたくさん参加してくれます。

しかし女の子が増えたとはいえ、将棋教室や道場ではまだまだ男の子が圧倒的に多数。将棋に興味があるとはいえ、男の子ばかりの中に女の子一人で入っていくのは不安で心細いものです。私も小学生の頃、行く先々の教室・道場では男の子・おじさんがほとんど。妹(女流棋士中倉宏美二段)が一緒にいてくれたことが心強かったことを思い出します。

そこで今回のいつつブログでは、せっかく将棋に興味を持ち始めた女の子が将棋をやめてしまわないように、女の子への指導で心がけていることについてお話ししたいと思います。

女の子だからこう、男の子だからこう、と決めつけるのはよくありません。最終的には個人個人にあった指導をしていくことにはなりますが、長女、次女、末っ子の長男と3人の子育てをしている身としては、男の子・女の子特有の考え方や行動の傾向があることを感じずにはいられません。

そうした傾向をつかみながら、一人でも多くの女の子が将棋の魅力を感じ継続することができる指導を目指していきたいと思っています。

1. 無理に対局をさせない。

対局を嫌がるときは詰将棋などに切り替えを
対局を嫌がるときは詰将棋などに切り替えを

将棋をするときに女の子の特徴として現れやすいのが、「対局を嫌がる」という点です。

もちろん対局をしないと、将棋の腕が上がらないというのはあるのですが、女の子の場合、対局で負けちゃったときに男の子よりも少し落ち込みやすい傾向にあるように思います。こんなときに「練習だから」と無理に対局をさせてしまうと、どうしても心が折れやすくなってしまいます。

そこで、私の場合、女の子が対局をいやがる時は、詰将棋の問題をやってもらいます。過去のいつつブログでも何度か書いたのですが、詰将棋には、問題を解くたびに達成感を得られるという良いところがあります。

問題が一つ終わるたびにはんこを押してあげるなどの工夫をすることで、さらに「私もちゃんと成長してる」と感じてくれます。

ちなみに、女の子の中にも好んで対局をしたがる子ももちろんいます。その子には男の子と同じようにどんどん対局をさせてあげてください。

2. 対局をするときは違う世代を相手に

対局相手には違う世代を
対局相手には違う世代を

「対局を嫌がる」という女の子の特徴をさらに細かく見ると、「特に友だち同士での対局を嫌がる」というポイントが出てきます。

女の子というのは、友だちどうし互いにライバルとなり、競うことで高め合いたいというよりは、同じ悩みや喜びを友だちと分かちあいたいと思う傾向があります。

これは、私の将棋の恩師である岡本先生が言っていたことなのですが、日本の伝統文化の中でも女性に茶道や華道が人気なのは、横のつながりでの争いがないからではないかなとおっしゃっていました。

とはいえ、将棋をする上で対局は避けられません。

そこで岡本先生は、府中市で女性5人の将棋チームを編成しているのですが、対局の相手には、必ずチーム外の人を選び、チーム内での対局は意識的に避けているそうです。

ちなみに私も将棋教室では、私自身が対局相手になったりなど、女の子の対局相手には、できるだけ世代の異なる相手を選ぶようにしています。

3. 教える場面を作ってあげる

女の子は教えるのが上手
女の子は教えるのが上手

私が子どもの将棋教室を担当していて思うことなのですが、「将棋を教える」という点においては、男の子より女の子の方が上手な傾向があります。女の子はお世話好きという傾向があるからでしょうか。

他にも、駒をきれいに片付けてくれたり、詰将棋のプリントがなくなりそうになると「もう直ぐプリントがなくなりそう」と報告してくれたりなど、とても気が利くのが女の子が多いのです。

なので、私もついつい女の子を頼って「あの子に将棋を教えてあげて」「駒を片付けてもらっていい?」などお手伝いをお願いすることがあります。

そして、この時大切にしているのが、ちゃんと将棋を教えてくれたことや駒を片付けてくれたことに対して「ありがとう」と感謝を述べることです。

子どもたちの将棋に対するモチベーションを維持するのは、何も対局の勝敗だけではありません。それぞれの子どもたちの良いところを見つけてあげて、それを「ちゃんと見てますよ〜」と示してあげることが大切ではないかと思います。

4. 将棋以外の話をする

将棋以外のお話をして緊張感をほぐしてあげてください。
将棋以外のお話をして緊張感をほぐしてあげてください。

冒頭の方でも少し触れているのですが、少しずつ増えているとはいえ将棋教室や道場では、男の子の数に比べてやっぱりまだまだ女の子の数は少ないといえます。

そのため、将棋教室に来ても女の子は緊張気味だったりと所在無げにしていることもあります。

そこで、将棋教室が始まる前の時間などを利用して女の子と雑談をするようにしています。

内容は学校の部活動についての話や、運動会の種目についてなど将棋以外の他愛のないものです。雑談をすることで緊張がほぐれ、そのままリラックスした状態で将棋教室の講座に入っていけるようになります。

5.団体戦の大会をオススメする

過去のいつつブログで、子どもの将棋に対するモチベーションを維持するためには、子ども向けの将棋大会に出場するのがいいというお話をさせていただきました。

しかし、大会に出場することについても男の子と女の子では少し違いがあるようで、女の子の場合は「他の子に勝ちたい」というより「負けるの嫌だな〜」と感じる傾向が強いように思います。

そこで私が女の子たちにオススメしているのがチームで戦う団体戦です。実際大人になっても女性の場合は5人1チームで戦う団体戦(アパガード女子アマ団体戦)があるのですが、みんなお揃いのTシャツを着たり、将棋の駒をモチーフにしたヘアピンをつけていたりと対局以外でも将棋大会をとても楽しんでいます。

一人で戦うことはとても不安かもしれませんが、周りに自分の仲間がいると意識するだけで、不安が心強さに変わりますよね。

さて今回は、女の子に将棋を教える時に私が心掛けていることをいくつか紹介させていただいたのですがいかがでしたでしょうか?

将棋は身体ではなく脳の体力が試されるゲーム。男の子も女の子も平等に腕を磨ける数少ないスポーツの一つだと思います。

なので、競技人口の中で女の子の割合が少ないのは女流棋士としても寂しく思います。

「一人でも多くの女の子に将棋の楽しさを知ってもらいたい」

これからもそう思いながらいつつの活動をしていきたいなと思っています。

*
いつつのオンラインショップ「神戸の将棋屋さんいつつ」では、女の子が将棋を楽しめるようなかわいい将棋グッズをたくさん取り扱っています。

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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