将棋を楽しむ 2018年12月18日
今の時代だからこそ顔の見えるコミュニケーションを〜駒の時間〜
インターネットやスマートフォン、目まぐるしい勢いで日々デジタル化が進む昨今、大人も子どもも、対人でのやりとりが滅法少なくなってしまいました。そして近年、そんな希薄化する人間関係のアンチテーゼのように俄かにブームになっているのが、ボードゲームやカードゲームといったいわゆるアナログゲームの存在です。アナログゲームといえば、みんなで輪となり、他愛ない会話を交えながら和気藹々と楽しむ、まさに「対人コミュニケーション」という言葉を具現化するツールであるといえます。
そして、いつつでお馴染みの将棋もまた、ボードゲームであり対人のコミュニケーションの手段です。もしかすると、二人のプレーヤがただ黙々と指し続けるという特異な光景から、「将棋はコミュニケーションのツールではない」という感想を持たれる方もいるかもしれませんが、「棋は対話なり」という言葉もあるように、将棋の場合は、盤上で人と人が言葉を交わし、コミュニケーションを図っています。
そこで今回のいつつブログでは、600種を超える国内外のボードゲームやカードゲームを所有し、それらを使ったイベントやプレイスペースの運営、及び販売を行うお店「駒の時間(とき)」(兵庫県加古川市)の、オーナーのTokiさんこと住江雅行さん(以下:Tokiさん)と店長のKomaさんこと内海満香さん(以下komaさん)に、将棋をはじめとしたボードゲームの魅力と、ボードゲームを通じたコミュニケーションの在り方について詳しくお話をうかがいました。
大人も本気になれるボードゲームは最高の家族コミュニケーション
–加古川市にこんな場所があるなんて知りませんでした。いつつのオフィスも大概ボードゲームが多い方だと思っていたのですが、比べ物になりませんね。
komaさん:ここに置いているのは私たちが所有するボードゲームのうちのほんの一部です。バックヤードには、まだまだ色んなゲームがありますよ。
-駒の時間が発足したきっかけはなんですか?
komaさん:元々オーナーのTokiさんとは知り合いだったのですが、仕事の空き時間に「ボードゲームをしよう」と誘われました。その時はまだ4種類のボードゲームしかなく、二人で繰り返し何度もプレイしていたのですが、そのうち、私たちと同じようにボードゲームに興味のある人を探すようになり、人が増えたことでボードゲームの数も増え、ゲームの数が80を超えたあたりで、こことは別の場所で夜間と週末だけオープンする予約制のプレイスペースとして駒の時間をオープンしました。それから、ゲームの数がさらに増え、前の場所が手狭になったので、今の場所に移りリニューアルオープンしました。
-これだけ集めたのを見ると、よほどボードゲームにハマってしまったんですね。ボードゲームのどこにそんなに惹かれたのですか?
komaさん:私もそうなのですが、特に子どもたちが小さいうちは、母親は皆どうしても子どもに合わせた遊びをするようになります。子どもと遊ぶこと自体は楽しいのですが、自分も子どもと同じように純粋にそれを楽しんでいるかというと少し違いますよね。でも、ボードゲームの場合は、大人でも子どもと同じように純粋な気持ちで楽しむことができます。ボードゲームと出会い、自分の子どもたちと本気で何かを楽しめるなんて、親としてこんなに嬉しいことはないと感激しました。
-将棋もそうですが、ボードゲームは家族のコミュニケーションにピッタリだと思います。
komaさん:ですよね。しかしながら、まだまだボードゲームは子どものおもちゃと考える習慣が根深いのか、ボードゲームの中では定番と呼べるようなものでも、よほどアナログゲームに詳しいお父さんお母さんでない限り知らないというのが現実です。そこで、駒の時間では、週末や定休日の木曜日、夏休みや冬休みといった長期の休暇に、親子参加限定のゲーム会を開催したり、児童クラブに出向いたりしています。そうすることで、子どもたちから大人にボードゲームの楽しさが伝播し、「子どもたちから聞いたんだけど」とここまで足を運んでくれたり、実際にプレイスペースでボードゲームを体験して購入してくださることもあります。
Tokiさん:楽しいことについてはいつの時代も大人より子どもの方が敏感なので、子どもが楽しめるものは、大体大人も楽しめると思います。
-「楽しい」という感情を刺激するために、まずは子どもたちに働きかけるというのは効果的かもしれませんね。将棋も最初は子どもたちが学校や学童のお友達と指すようになり、好きになるというパターンが多いように思います。子どもたちが感じた楽しさがお父さんやお母さんたちにも伝わって一緒に指せるようになるとさらにいいなぁと思います。
今の時代だからこそ顔の見えるコミュニケーションを
Tokiさん:毎年、市が主催している「職業人と語ろう」という小学校の行事に参加しています。「職業人と語ろう」というのは、消防士の方や美容師の方、ケーキ屋さんなど、地域で働く人が集まって、子どもたちに実際にその職業を体験してもらおうという企画です。私たちはボードゲーム屋さんという立場で参加したのですが、子どもたちにはボードゲームを体験してもらい、そのゲームのルールを他の人に説明してもらうというプログラムを実施しました。
–すごく子どもたちから人気がでそうですね。
Tokiさん:私はその時8人の子どもさんを受け持っていたのですが、興味本意で子どもたちの将来の夢について聞いてみました。しかし、残念なことにボードゲーム屋さんと答えてくれる子は一人もいませんでした、笑 そして、とてもびっくりしたことなのですが、なんと8人のうち5人のお子さんがユーチューバーと答えたんです。ニュースなどで、最近人気があるとは聞いていたのですが、まさかこれほどとは思っていませんでした。
–ソーシャルメディアが当たり前になった昨今では、小学生がこのような夢を抱くのは自然の流れかもしれませんし、世界に向けて自分のことを発信するというのも素晴らしいことだと思います。ただ、世代の違いもありますが、コミュニケーションという点では少し心配にはなりますね。
Tokiさん:私が特に心配しているのは、ソーシャルメディアが顔の見えないコミュニケーションという点です。本来、ソーシャルメディアであっても人と人とのやりとりが発生しているはずなのに、PCやスマートフォンのスクリーンを挟んだ瞬間、向こう側にいる人のことを忘れてしまっているような気がするのです。例えば、対面だと絶対にいわないような心無い言葉をオンライン上だと簡単に言えてしまったり、オンラインゲームだと自分の形勢が悪くなるとすぐに対戦を放棄してしまったりということもあるかもしれません。Face to Faceで相手の表情を見ながらプレイができる。これこそ、ボードゲームのようなアナログゲームのコミュニケーションの1番大切な部分だと思います。
ご存知かもしれませんが、近年ボードゲームが密かにブームになっています。加古川ではうちだけですが、大阪や首都圏に行くと、毎月のようにボードゲーム関連の新店舗がオープンしています。
顔も見えない、声も聞こえないオンラインでのやりとりが主流になった現在、カテゴリーこそアナログに分類されるボードゲームの対面でのコミュニケーションが、今の若い人たちにとっては逆に目新しいものなのかもしれません。
1番大切なのは「楽しい」の気持ち
–将棋でもオンラインの波が押し寄せており、今や棋力上達を目指す上では、オンライン将棋は欠かせなくなりました。どこまでオンラインに頼るのかというのは悩みどころではあるのですが、レッスンの中でオンラインを使うときは、子どもたちに必ず相手の顔を確認し、対人の時と同じように挨拶は必ずするようにしています。そういえば、駒の時間に通っているお子さんがボードゲームで大人も含め日本一になったとうかがいました。
komaさん:ラミィキューブというゲームですね。数字の書かれたタイルをうまく場に出しながら、手持ちの札を消化して行くゲームです。ここに家族で遊びに来てくれている女の子が2018年日本選手権大会で優勝しました。
Tokiさん:ちなみに、同じ大会でkomaさんも4位になっていましたよね。
–将棋もそうなのですが、ボードゲームには戦略を立てたり相手と駆け引きしたり、思考力を養うイメージがあります。
komaさん:駒の時間がある加古川市は棋士のまちなので将棋が強い子も多いのですが、確かにその子たちは戦略系のボードゲームに強いという傾向がありますね。ボードゲームをするから思考力がつくのか、思考力があるからボードゲームが強いのかは分かりませんが。
Tokiさん:ただ、私個人としては、思考力がつくからとか集中力がつくからというよりも、純粋に楽しいからこそボードゲームに触れて欲しいと考えています。komaさんがいうようにボードゲームと思考力の鶏と卵の関係は分かりませんが、仮にボードゲームをして思考力がついたとしたら、それはあくまでもボードゲーム楽しんだことに対する副産物のようなものかと思います。
komaさん:ボードゲームには、戦略系の他にも、スピードや反射神経が必要なもの、記憶力を試すもの、数の計算をするもの、人と協力するものなど幅広い様々な分野があり、どのお子さんでも、必ずどれか一つは好きになったり、得意だったりするものがあると思います。
ー好きこそものの上手なれということですね。そもそも、何事も「楽しい」がないと続かないし、続かないことには思考力も何も身に付かないですよね。
編集後記
駒の時間には、600種を超えるボードゲームがあるのですが、実はその中に将棋はありません。オーナーのTokiさんに「将棋は置いていないのですか?」と質問たところ、「あえて置いていない」との答えが返ってきたので、その理由について尋ねたところ、「将棋は将棋教室で指すのが1番楽しいから」とのことでした(子ども向けの簡易版のような将棋グッズはありました)。
何を隠そう、オーナーのTokiさんは学生時代将棋部だったそうで、昔はお父さんとよく指していたそうなのですが、一度も勝てず将棋が嫌になってしまったそうです。「将棋はやっぱり勝てる方が嬉しいし楽しいですよね。将棋で勝つためのノウハウは私よりきっと将棋教室の方が持っていると思うので、笑」とのこと。今回の取材をきっかけに、もう一度将棋に興味を持ってもらえるといいなぁと思います(^ ^)
また、家族とボードゲームをするのが楽しいと話していた内海さんですが、駒の時間を通じて、学生さんや遠方の方など、普通に暮らしていると絶対に出会えないような人と繋がっていけるのも、ボードゲームの醍醐味なんだと教えていただきました。
いつつのブログでも、度々将棋は、世代も性別も国籍も超えることができるというお話をしているのですが、「ボードゲームでは誰もが平等。みんなが真剣になれる」とキラキラした笑顔で話す内海さんを見て、改めてボードゲームとしての将棋の面白さをたくさんの人たちに広げて行きたいなぁと感じました。
施設データ
施設名称 | 駒の時間(とき) |
場所 | 兵庫県加古川市米田町船頭624 |
営業時間 |
平日17:00~23:00 |
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