株式会社いつつ

将棋を学ぶ 2018年6月29日

将棋初心者の子どもたちのつまずきポイント③ 相手の駒の利きが見えない

中倉 彰子

駒の価値が分からないのではなく、相手の駒の利きが見えない

将棋はじめてや将棋初心者の対局では、「相手の歩の前に自分の駒を動かしてしまう」ということがよくあります。これだと、自分の駒がタダでとられるので、「駒の価値を理解していないのかな?」と思うのですが、実はそうではありません。まだ将棋をはじめたばかりで、将棋初心者のうちは、自分の駒の利きは分かっても、「相手の駒の利き」がみえないのです。

前々回の将棋初心者の子どもたちのつまずきポイントでは、「駒が取られてしまって損だよね」と駒の価値について触れましたが、「相手の駒の利きに気が付かなかった」というケースがとても多いというのが私の実感です。

相手の歩のすぐ前なのに・・・。そう、たとえ利きがたった1つしかない「歩」といえども、相手の駒なので、将棋はじめてや将棋初心者のこどもたちにとっては、見えづらいのです。

そこで、いつつで制作したはじめて将棋に触れる子どもたちのための初心者向け将棋テキスト「はじめての将棋手引帖1巻」では、最初は自分の駒の動きに丸をつけるワークからはじまりますが、途中から相手の駒の動きに丸をつける、というワークも取り入れています。将棋をはじめて間もないうちは相手の駒の動き=利きは、特に意識する必要があるからです。

将棋初心者の子どもには、相手の利きが認識しづらい。
将棋初心者の子どもには、相手の利きを認識しづらい。

目に見えない利きを見えるように

確かに「駒の利き」は目に見えません。「普段は目に見えない・・・」なんていうとまるでおばけみたいですが(;o;)、見えないならば、見えるようにしてあげましょう。ということで、、。例えば、下の写真のように、相手の駒が利いているところに、おはじきなどを置きます。こうすることで、普段は見えない相手の駒の利きを可視化することができますよね( ´∀`)まずは、最も簡単な相手の「歩」の利きから。「歩」の利きに慣れてきたら、次は金・銀・香・桂・飛・角・龍・馬と、徐々に難易度を上げながら慣らしていくといいと思います。
おはじきをおくと、子どもたち(特に女の子)は、わ〜きれい〜と喜びます。いつもとちょっと違うアイテムをいれるのも飽きさせないコツです。

まずは利きを目に見えるようにしてあげる
まずは利きを目に見えるようにしてあげる 例:馬と龍の利きにおはじきを置いています。

ちなみに、駒の価値の順番だと、金・銀・桂・香の順番なのに、なぜ相手の駒に慣れるのは金・銀・香・桂の順番なのかというと、桂は将棋をはじめたばかりの将棋初心者の子どもたちにとって意外な動きをするからです。なんていったって飛んできますからね、笑

このような練習を繰り返し行うことで、将棋初心者の子どもたちでも、これまで見えなかった相手の利きが徐々に見えるようになってくるのです。

特に見落とされがちな大駒の利き

今回のつまずき具体例

相手の大駒の利きが見えない

相手の大駒の利きが見えない。
相手の大駒の利きが見えない。

さて、前章で、最も見えにくい相手の駒の利きとして大駒2つの利きを挙げました。では、なぜ相手の大駒の利きが見づらいかというと、それは、動きが大きい分、自分の駒と離れた場所から狙われてしまい、ついうっかり見逃してしまうからです。

上の図はいつつ将棋教室で実際に出た場面です。この後、玉側のお子さんがどのように指したかというと、8六歩とつきました。そうですよね。将棋教室では序盤の指し方として「飛車先の歩をつく」と教えますからね。

でも、よく見てください。ここで8六歩とつくと、9五にいる角の利きが自分の玉に届いてしまいます。自陣に角を打ってスナイパーさながらに遠くからこっそり敵陣を攻撃することを将棋の言葉で「遠見の角」と言いますが、相手のスナイパーにも十分気を配らないといけませんね。

うっかり9五の利きを見逃し、玉が絶体絶命
うっかり9五の利きを見逃し、玉が絶体絶命

ちなみに、私が子どもたちの指導をするときは、「飛車の横利きビームがここからでてるよ。」「角のななめレーザーがきいているよ。」なんて子どもたちにとって馴染みやすい表現を使ってみたり、「指し手の前は、相手の駒の利きをよくみて確認!」と合言葉のように唱えたりしながら、将棋をはじめたばかりの子どもたちでも、相手の駒の利きを意識できるようにサポートします。また、「対局中は四隅の香をみましょう」というのも、私自身が昔習った言葉です。香は対局がはじまっても四隅にいることが多いので、これを確認することで、戦いが起こっている箇所ばかりみるのではなく、遠くからきいている角や飛車にも気がつくことができることがあります。

さて今回は、相手の駒の利きが見えないという、将棋はじめて・将棋初心者の子どもたちのつまずきポイントについてお話しましたがいかがでしたでしょうか?

駒の利きは目に見えないものですから、それを意識しろと言われてもなかなか難しいのかもしれません。でも、たくさん対局をこなしていくことで、今まで見えなかった利きがちゃんと見えるようになるといいですね٩( ‘ω’ )و

今回のおさらい

  1. 将棋初心者がタダで駒をあげてしまうのは、駒の価値が分からないからではなく、相手の駒の利きが見えていないから
  2. 見えない駒の利きはおはじきなどを置いて可視化する
  3. 「飛車の横利きビームがあるよ。」「角のななめレーザーだよ。」など、目に見えない「駒の利き」を子どもたちが想像しやすい言葉で伝える
  4. 指し手の前は、「相手の駒の利きをよくみて確認!」を徹底

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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