株式会社いつつ

将棋を楽しむ 2016年9月28日

麻布高校3連覇の立役者西尾龍太郎氏が語る、将棋をしていて良かったこと

高橋 孝之

以前、「将棋やっててよかった」5人の証言〜いつつスタッフ編〜というブログ記事をアップしましたが、いつつのスタッフは中倉彰子を除くと将棋をガッツリしていた人間はいません。

もう少し幼少期より将棋をやっていて、現在社会で活躍している人の話も聞いてみたい! そういう好奇心から、このインタビューは始まりました。というわけで、中学、高校時代、将棋部で活躍していた西尾龍太郎さんにお話を聞くことにしました。

西尾龍太郎さんプロフィール

麻布中学、麻布高校卒。麻布中学在学時、全国中学生選抜将棋選手権大会で全国優勝。麻布高校在学中の3年間、全国高等学校将棋選手権大会男子団体の部で3連覇を達成。
大学卒業後、誰もが知っている総合商社で国際的な活躍をされた後、タイに渡り、今はアジアのインフラを整備すべく、バンコクを拠点に日々世界中を飛び回るスーパービジネスマンです。

タイで活躍する西尾龍太郎さん(ワンコとマッサージを受けているところ、とのこと)
タイで活躍する西尾龍太郎さん(ワンコとマッサージを受けているところ、とのこと)

インタビューさせていただいたその日もミャンマーに向かう前日とのこと。お忙しい中、「将棋をしていて良かったこと」について、国際的なビジネスマンの観点からいろいろと教えていただきました。

将棋を始めたきっかけ

いつつ高橋(以下高橋):将棋がとても強いことは、もちろん当時も知ってたんだけど、西尾はどうして将棋を指すようになったの?

西尾龍太郎さん(以下西尾さん):2歳下の弟がいて(プロ棋士の西尾明六段)、負けず嫌いなんだよね。いつも2人で競争していた。母親もいろいろオレら兄弟に「遊び道具」を与えてたんだけど、将棋もそのひとつで祖父に教えてもらったのが最初かな。小学校3年生の頃だったと思う。戦法を学べば学んだ分だけ強くなるというところ、そしてどんどん上に上っていく過程に面白みを感じたね。もともと競争が嫌いじゃないんだと思う。

高橋:将棋は数ある遊びのひとつだったんだね。他にはどんなことをしていたの?

西尾さん:将棋に熱中する前は珠算(そろばん)で競争していたね。小学校3年か4年の時点で五段までとった。母親がそろばんができたということもあって、家でそろばんを兄弟でやって、どっちが点数が高い、と毎日のように競争してたよ。

高橋:おじいさんは将棋が強かったの?

西尾さん:そんなに強いわけではないよ。ルールを教えてもらった後はひたすら兄弟で指していたね。近所の将棋道場にもちょっと通ったけど、何と言っても弟と将棋で対局することがとても楽しかったんだよね。小さい頃って指すのがものすごく早いから、1日50局くらい2人で指してたように思う。それで、どっちが何回勝った〜負けた〜って言い合ってた。すぐ側に強敵がいてくれたというのは、強くなる上では本当にラッキーだったと思う。

高橋:あぁ、それはうちの社長の中倉彰子も言ってたよ。子どもが何かを続けていく上で、ライバルの存在は大きいのだろうね。

西尾さん:中学受験もあって、小学5年生の後半くらいからはあまり将棋はしなくなったんだけどね。四谷大塚に通っていたから、小学6年生の時は、ほとんど将棋を指していなかったと思う。

高橋:中学の時はチェスをやってたイメージもある。

西尾さん:中学の時は、チェスも将棋も両方やってた。チェスで中学3年の時にドイツで国際大会にも出たよ。将棋は、中学選抜で優勝してる。

高橋:いや〜すごいね。うちの学校は「優勝しました!」とか大々的に言わない学校だったし、休み時間に将棋の相手させていたことが本当に申し訳ない気持ちになる経歴だね。

西尾さん:将棋は野球やサッカーと比べるとやっている人が少ないというのもあるだろうね。

高橋:大学入ってからは陸上をやっていたよね。将棋は辞めたのかな?

西尾さん:運動したくなって(笑)。将棋はぜんぜんやってない。高校で燃え尽きたのかもなー。自分の棋力が高校1年生あたりがピークで、落ちてきているのがわかっていたからかもしれないね。

海外の人との交流に

高橋:そろそろ本題に入ろうかと思うのですが、西尾が将棋をやっていて良かったなと思ったことを教えてもらえるかな?

西尾さん:今から思うと良かったなというのがいくつもあるんだよ。将棋って日本のゲームなんだけど、海外にも似たようなゲームがあるんだよね。チェスとかシャンチーとか、いろいろあるんだよ。でもその中でも将棋は群を抜いて複雑なんだよね。将棋をやってきていたお蔭で、チェスやシャンチーに触れる上でもまったく抵抗がなかった。今、海外でビジネスをしていて、海外の人たちとビジネス上の付き合いもたくさんあるんだけど、チェスやシャンチーができると、ヨーロッパの人や中国の人と実際に指すこともあるし、指さない人であっても会話のネタとしてものすごく盛り上がるんだよ。

高橋:海外の人で、チェスやシャンチーができる人は多いのかな?

西尾さん:多いよ、とても多い。今住んでいるタイにもマークルックという将棋があるけれど、まだ手を付けられていないから、そのうちトライしたいと思っているんだよ。

高橋:この前タイに行った時に西尾に教えてもらったマークルックは、会社でも購入したよ。

西尾さん:中国将棋(シャンチー)も面白くて、真ん中に川が流れてたり砲が飛んできたりする。こういうところから、文化の違いも分かるよね。将棋は取った相手をもう一度自分で使うし、シャンチーは取ったら終わりだしね。

高橋:そのあたりの文化的な話は、いつつでもワークショップで取り上げて、子どもたちに紹介しているポイントです。

西尾さん:ビジネスミーティングでも、シャンチーの話題はよく出すんだよね。「◯◯公園でシャンチーをやっている人がいて、いっしょにやってみたんだ」、なんて話をするとものすごく相手の食いつきがいいよ。

高橋:確かに海外の人と働くにあたって、いくつか会話のネタがあると本当に気が楽だよね。どうしても一本調子で単調な会話になりがちだから、飲み会やパーティでの振る舞いは難しい。

西尾さん:余談だけど、将棋を知っている人がチェスやシャンチーを学ぶ方が、逆よりもかなり楽だと思う。将棋を学ぼうとして苦労している人をたまに見かけるね。

選択と集中

西尾さん:それから、ビジネス計画を立てる上での「選択と集中」に抵抗がないというのは、将棋をやっていたからかなと思う。計画を立てる上で、全部虱潰しに調べていかないと不安で仕方がない人っていると思うんだけれども、オレはどちらかと言うと、感覚的に浮かんだ3つくらいのアイディアをどんどん掘り下げていこうというタイプだね。そしてそれを実行していったとしても、あまり不安を感じないこの感覚はとても将棋に似ている気がするし、将棋をやっていたからこそだなと感じるポイントだね。完璧を狙いすぎても、たぶんビジネスでは成功しづらいんじゃないかなと思うから、将棋をしていてビジネスに活きているなと実感しているよ。

高橋:80 for 20(20の労力で80%を達成しようという考え方)だね。頭で理解するのはかんたんでも、実際にそれを続けていくには勇気がいるね。

西尾さん:将棋って、相手の王様を詰ましたほうが勝ちという、ある意味目的がこの上なく明確なゲームだよね。将棋は100手くらいで決着がつくことが多いのだけど、指している途中で目的がわからなくなることも多いんだよね。将棋は、個別の衝突がたくさん発生して、各論がそこら中にあるゲームなんだよ。その個別の衝突に勝利していって、駒をたくさん取っていくうちに、本来の目的を忘れてしまうことがある(笑)。飛車取ろうが取られようが、王様を詰ませればいいのに、変な方に突っ走っちゃうことがあって。そういう時に大切なのは、大元の目的の戻ることなんだよね。これってビジネスにとても近い感覚だと思う。ビジネスも目的を設定するんだけど、各論が至る所でぶつかり合うんだよね。そうすると目的が見えづらくなっていくのだけれども、そこで目的に立ち戻ろうと目が覚めるのは、将棋で似たような経験をしているからかもしれない。

考え続ける習慣

高橋:将棋をやっててよかったなと実感するのは、社会人になってからのエピソードが多いのかな?

西尾さん:そうだねぇ。将棋を指す友達はたくさんできたけど、じゃあサッカーやっていた人よりも比較として友達が多くできるのかと言われるとわからないしね。あぁ、でも考える習慣というのはできたなと思ってる。

高橋:確かに採用活動をしていても実感するのだけど、知的体力がある人というのはなかなか巡り会えないね。

西尾さん:まぁ受験に役に立ったかどうかはわからないけどね。でも、たとえば算数の問題で、どうしてもわからない問題があったとして、普通の人だったら30分か1時間でギブアップしてしまうよね。どうしてもこの問題を解きたいと思ったら3時間くらいは粘る。将棋でも1手1時間や2時間考えることはあるからね。

高橋:なるほど。1手1時間や2時間考えられるなら、算数の問題で数時間考えるのも苦ではなさそうだね。

西尾さん:実際に将棋のケースでは、いつ考えているのかというと、将棋を指していない時に考えるんだよね。この時間は、将棋を指している時間よりもずっと長い。対局中ではなく、対局が終わった後に、あのように指しておけば良かった、こう対応すれば良かった、って考えるんだよね。

高橋:感想戦のことかな?

西尾さん:ひとり感想戦みたいなものかな。そして本当に負けて悔しい時は、夜寝られないんだよ。あの時あーだったこーだった、って自分だけで考え続けるんだよ。絶対に負けてはいけない相手や対局に負けると悔しくてしょうがないし、それから間違いなく勝勢だったのに、最後大逆転されてしまった時とかも、対局の時間よりも長い時間考えていたね。それが将棋が強くなるポイントでもあるのだろうけどね。

高橋:悔しさが大切ということだね。

西尾さん:悔しさと好奇心だね。なんでこれ負けたんだろうって突き詰めていくのって、悔しさもあるんだけど、好奇心もあるんだよね。それをずっと考えているというのは小さい頃からのクセがあるから、学生時代も難しい課題への取り組み姿勢としての知的な体力は持っていたのかもしれないね。

高橋:忙しい中、ありがとう。身が引き締まったよ。

編集後記

西尾さんがタイに住んでいると聞いて、出張の合間にご飯を食べたのは1年ほど前のことになります。いつつを立ち上げる直前でした。その時、将棋について熱く語っている西尾さんを見て、将棋から離れたと聞いていたけれども、大好きなんだなと感じたのをよく覚えています。

ビジネスパーソンとして活躍している友人の考えを見聞きするということは、とても刺激的でした。お話をお伺いして、タイに住んで働いているということも、西尾さんなりの「選択と集中」であり、またご自身のビジネスに対する考え方が将棋と非常に近いことに大変興味を持ちました。

あくまで「将棋を指していなかったとしても、身についていた可能性はある」と前置きしながらも、将棋や、おそらく他の経験されていることすべてにおいて、自分自身の考えの軸を抽象化した上で有機的に結びつけていることに畏敬の念を感じずには得られませんでした。将棋を指すことと、ビジネスで活躍することは因果関係があるのかというとわかりませんが、将棋を通じて学んだことを西尾さんのように活用することができれば、それはひとつの強い武器になるということがはっきりと理解できたインタビューでした。

*
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この記事の執筆者高橋 孝之

アクセンチュア官公庁本部にて官公庁の業務改革プロジェクトに従事。大学院留学 を経て、MM総研にてITサービスの企画・コンサルティング、新規事業コンサルティング、新サービスの調査研究、P&Gにて市場分析、消費者調査、ブランド戦略、販売戦略、販売量予測などに従事。その後参画したアドバンスト・マークでは、ハンズオンの事業再生コンサルティングに従事。クライアントの経営本部長、マーケティング部長として事業再生、ブランド再生、組織作り、マーケティング、広報、営業、クリエイティブ、海外 投資家との折衝など幅広く携わる。2012年に株式会社ホジョセンを設立、代表取締役就任。生活者視点のブランド・マーケティングや事業戦略のコンサルティングをおこなう。2015年、日本伝統文化にマーケティングの考えを適用して普及すべく、プロの将棋女流棋士中倉彰子とともに株式会社いつつを設立、取締役就任。京都大学法学部、英国グラスゴー大学大学院社会科学研究科卒。@inyuinyu

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