連載:全国将棋道場巡り 2018年10月31日
[閉鎖]放課後の子どもたちがふらっと立ち寄れる将棋教室〜こども将棋教室ポポ〜
JR茨木駅から徒歩5分。駅前商店街の中に佇むビルのテナントの入り口に可愛いロゴを掲げた一室があります。「こども将棋教室ポポ」は女性席主諏訪景子さん(以下諏訪さん)が営むアットホームな将棋教室。
全国津々浦々、女流棋士の中倉彰子が将棋教室や将棋道場を巡る「全国将棋道場めぐり」シリーズ。今回は中倉彰子ではなくいつつのスタッフが大阪府茨木市にある「こども将棋教室ポポ」にやってきました。
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指せる機会の限られた子どもたちのために開校
-唐突ですが、ポポって可愛い名前ですね。由来はなんですか?
諏訪さん:将棋教室の名前を何にしようか悩んで将棋盤を眺めていたときに、たまたま盤上に歩が二枚並んでいたんです、笑
-「歩歩」と書いてポポと読ませたんですね。
諏訪さん:はい。ロゴは知り合いのデザイナーさんにお願いしたのですが、元の字から人が歩く姿をイメージして作ってもらいました。
-将棋教室を始められたきっかけはなんですか?
諏訪さん:地元である茨木市の小学校から、放課後教室の講座で将棋を教えてほしいと声をかけられたのが最初です。私が放課後教室を担当している中で、本当に良く問い合わせを受けたのが「将棋教室はないか」という内容だったのですが、当時私が紹介出来たのは関西将棋会館と豊中市にある将棋教室の2つ。茨木からだとどちらも遠いので、結局のところほとんどの子どもたちが将棋教室に通いそびれていました。私自身、40代くらいで自分の教室を持てたらいいなぁとおぼろげに思っていたのですが、こうした現状を受け2012年に今の場所から少し離れたワンルームマンションの一室で将棋教室を始めました。
-将棋を始めたいけど将棋を指す場所がないというのは今でもたまに耳にします。
諏訪さん:放課後教室で何度も質問を受けていたので生徒が0人ということはないだろうと思っていましたが、いざ蓋を開けてみると、月1回、1日2クラス定員6名がどちらもいっぱいになってしまい、このままではまずいと数年前に今の場所に移りました。今は名簿上だとちょうど50人の生徒さんがいらっしゃいます。

35級から始まる級認定
-すごいですね。ポポができたことで、たくさんの子どもたちが日常的に将棋を楽しめるようになったんですね。開校にあたって何か工夫されたことはありますか?
諏訪さん:まずは級認定でしょうか。通常の将棋教室が15級や20級くらいからなのですが、ポポでは35級から認定するようにしています。私が将棋教室を始めるとき、級認定の基準を作成するのに、参考にさせてもらおうと、実は10校ほどの将棋教室に問い合わせをさせていただきました。ただ、色んな将棋教室に聞いてはみたものの、自分が放課後教室で教えている時の肌感覚とは少し違うなと感じました。
放課後教室の子どもたちは先ほども申し上げたように、日常的に将棋を指すという環境が整っているわけではありません。指す回数も限られているので、例えば将棋のルールをきちんと覚えるのに半年かかるということもありますし、講師に10枚落ちで勝てる子なんてほとんどいません。なので、他の将棋教室の1番下でも15級という基準に合わせてしまうと、子どもたちがなかなか昇級できなかったり、そもそも級をつけられなかったりとなってしまいます。
-確かに自分の成長を実感できないとモチベーションが維持できないですよね。
諏訪さん:はい。なので、35級からというのもそうなのですが、「ルールを完全にマスターしたら30級」「成績で昇級するのは25級から(それまでは習熟度を見て認定)」という基準を設けています。私自身も初段になるまでに10年かかったのですが、こうして今子どもたちに将棋を教えることができるのは、楽しく将棋を続けてこれたからだと思います。時間はかかっても、諦めずずっと将棋を続けていれば強くなれるということを子どもたちにも実感してもらえればと思います。

女性席主だからできる女の子のためのクラス
-なるほど。35級から始めるのにはちゃんと理由があるのですね。他にも棋力による切り分けだけではなく多様な講座があることにも驚きました。
諏訪さん:これまでの初級・中級、現在はありませんが、10級以上のお子さんを対象とした上級コース、おとな教室、女性教室、どうぶつしょうぎ教室に加えて今年の4月からこども女子専門クラス、こどもドリルクラスという新しい講座を設けました。こども女子専門クラスはそのまま女の子だけを集めた講座。こどもドリルクラスはいつつのはじめての将棋手引帖を使った講座です。
-どのような経緯でこれらのクラスが追加されたのですか?
諏訪さん:女の子が少ないというのは、どこの将棋教室も抱えている課題だと思います。うちの将棋教室でも、男の子がたくさんいる中に女の子が一人いると萎縮してしまったり、せっかく体験会にきても、「他に女の子がいない」という理由で入会を辞退される方がいました。男性の先生だと、女の子だけを集めたクラスを作るわけにはいかないと思うので、女の子のために女の子のための将棋教室をつくるのは、女性である私の使命でもあるのかなぁと思いました。
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-女性の先生だからこそ、女の子への将棋普及のためにできるフォローや配慮はたくさんあるのですね。こどもドリルのクラスはどうですか?
諏訪さん:こどもドリルのクラスはどうぶつしょうぎから本将棋への移行という位置付けで設置しました。はじめての将棋手引帖1巻をテキストとして使用しているのですが、子どもたちでも読みやすいので、1回50分のレッスンのうち15分くらいで3日分くらい進めて、残りの時間でその日学習した内容で対局をするという形をとっています。先ほども言ったように、子どもたちだけでも取り組めるというのがいいところで、将棋教室以外にも、家で数日分解いて持ってくるというお子さんもいます。
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子どもの指導はプログラミングに似ている!?
-それはすごく嬉しいです。特に小さなお子さんだと、駒の動かし方や基本的なルールを覚えるだけでも、漢字や9×9の将棋盤といった壁があり大人とは違って本将棋を指すまでの準備期間が必要かと思います。子どもたちの指導という点で何か工夫していることはありますか?
諏訪さん:子どもたちどうしで教え合ってもらうということをよくしています。誰かに教えるということを通じて、もちろんその様子を側で見ている私や講師もそうですが、教えている本人自身も、自分は何ができていて何を分かっていないのかに気付くことができます。それに、子どもたちも教えることが割と好きなようで、そのことで楽しくレッスンを受けるということに繋がっているように思います。
-いつつの生徒たちも、特に勝ったときは積極的にアドバイスしていますね、笑
諏訪さん:他にも、子どもたちを指導する時は「やってはいけないこと」ではなく「どうやってほしいのか」を伝えるようにしています。例えば、生徒の姿勢が悪かった時「そんな座り方をしてはいけません」では子どもたちは分からないんだと思います。まずはおへそをちゃんと将棋盤の方に向けましょう。それから手は膝の上に置きましょう。背筋はピンと伸ばしましょうと伝えます。少しプログラミングに似てるような気がします。子どもたちはルールがあればそれはちゃんと守ってくれます。
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編集後記
教室の壁にはフォトグラファーでもある諏訪さんが収めたレッスン風景の写真がところ狭しと貼られていたり、駒の文字入れや駒の値段あてクイズ、オリジナル詰将棋の作成など色んなワークショップが企画されていたり、こども将棋教室ポポは、諏訪さんの温かい人柄がいっぱい詰まった空間でした。
また印象的だったのが、本棚です。将棋教室の本棚といえば難しい定跡書などがズラった並んでいるイメージだったのですが、ポポの本棚を埋めるのは子ども向けの入門書がほとんど。諏訪さん自身も、大学在学中は将棋の入門書を読むことがマイブームだったそうで「将棋の入門書には将棋のエッセンスが分かりやすく監修されています。難しい定跡書なども勉強にはなりますが、入門書だけでも十分に強くなります。楽しく将棋を続けてもらうためにも、子どもたちには入門書を薦めることが多いですかね」とのことでした。「楽しく将棋を続けること」を大切にしている諏訪さんらしいラインナップだなぁと感じました。
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※室内にあるポスターはフォトグラファーである諏訪さんが撮影したものです。
子どもたちは、もちろん将棋が指したくて将棋教室に足を運んでいることと思うのですが、それ以上にポポという空間で楽しい時間を過ごすことが大好きなんじゃないかなぁと感じました( ´∀`)もともと近所に将棋教室がなく将棋を習いそびれた子どもたちのために開かれたポポですが、近所に他の将棋教室ができたとしても、こども将棋教室ポポは子どもたちにとって唯一無二の存在なのではないでしょうか。
道場データ
残念ながら、こども将棋教室ポポは閉鎖されました。
こちらの将棋教室では、「はじめての将棋手引帖」を使用していただいていました( ´ ▽ ` )ノ
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