将棋を学ぶ 2017年11月29日
特別連載「将棋のお仕事百科」②聞き手の実は…
「聞き手」というお仕事は、プロの対局を棋士の先生と一緒に解説する役目です。 「大盤」を使って質問をしたり、対局者のエピソードなどを交えながら司会のような進行役も同時にこなせることが必要になるので、「聞き手」は、将棋の専門知識がある女流棋士が務めることがほとんどなのです。決して名前の通り「聞いているだけ」というわけではないんですね、笑。
いわゆる「大盤解説」は、今ではネット中継でお馴染みになりましたが、私がNHK将棋番組の司会兼「聞き手」を務めていた頃は、まだネット中継がなく、主に、名人戦や竜王戦などタイトル戦のみのテレビでの中継が中心でした。なので、当時は現地まで解説棋士と番組のスタッフで訪れ、タイトル戦の対局が実際行われている対局場の近くのホールなどで、撮影をしていました。
対局は二日制。だいたい午前と午後と夕方に放送がありました。1日目の午後の放送となると、指し手が一手も進まないということもあり、途中現地の観光スポットをリポートする映像を流すこともあったのですが、実は私、このリポートが大好きで、リポーターになった気分でいつもノリノリだったことを思い出します。、( ´ ▽ ` )ノ はしゃぎ過ぎて、着用していたジャケットに穴が空いていることに気づかず(お気に入りだったのですが^^;)、あとから放送をみて恥ずかしい思いをするというほろ苦い思い出もあります。トホホ。
現地リポートで特に印象に残っているのは、竜王戦の聞き手としてニューヨークを訪れた時のことです。 仕事だったのですが、初めてのNYということもあり、地下鉄に乗ってみたりブロードウェイを見たりととても楽しめました。また、その頃、ちょうど英会話の勉強していたので、ホテルの人に英語で話しかけてみて(完全におのぼりさんですね、^^;)その会話の流れで、何歳に見えるかという話になり、「17歳?」と言われたことは、今となってはとてもいい思い出です、笑(その時は20代だったもので・・・え、そんなに子供っぽく見えるのかとガッカリしたものですが)。
このように、聞き手は、対局者や関係者の方との会話や現地の方にいろいろなお話を聞きながら、放送で使えそうなネタを常に準備します。もちろん、1番大切なのは将棋の知識なのですが、視聴者の方により楽しんでいただくためにも、私は常にこのネタ準備だけは欠かさずしていました。
また、これまで私は様々な棋士の先生方の聞き手役を務めました。普段寡黙な先生も、大盤を背にすると、どんどん話をしてくださるから不思議なものですよね(^-^) 加藤一二三先生の聞き手役をした時のこと。NHKの将棋番組の場合は、解説の部屋が写っている時とカメラが切り替わり対局者がうつる時があり、モニターをみながら今どちらの場面が映し出されているのか確認するのですが、カメラが、「手の解説」から、「対局者」に切り替わったときに、「2四歩、同歩、同飛・・」手の解説を力説してくださる先生のトークを、切り替えないといけない時が大変でした(^_^;)
通常、対局者が映っているときは、手の解説とは違った話題、例えば対局者の人柄が伝わるようなお話を聞くようにします。例えば、解説の先生と対局者が同門で仲が良い場合などは、その話を振って「飲みに行くと、じつは面白い人なんですよ。」といったちょっとしたプライベートなエピソードを引き出します。熱心に手の解説をしてくださる先生に対して、「あ、先生、対局者が映っていますよ!」などとズバッと言えるようになってくるまでには、ずいぶん修行が必要でした。(年齢を重ねると遠慮なく言えるようになる部分もありますが・・・笑)
対局の進行だけをみて、おもしろいと感じてくれる人ももちろんたくさんいますが、やはり「この手はこういうことを狙っている手です。」「この定跡は過去のこの対局がベースにあります。」「この手は新手です。」といった解説が入ることで、将棋観戦がますます楽しくなります。また、対局者の人柄なども合わせてお伝えすることで、プロ棋士とファンの方との距離がぐっと近くなり、よりたくさんの人に将棋に対して親しみを持ってもらえるのではないかと思っています。 私が聞き手をしていた時は、見ている人が「なんでかな?」と疑問に思うことを代弁できるような聞き手をしたいとずっと思っていました。
対局がもちろん「主役」。解説と聞き手は「脇役」ではありますが、大盤解説という舞台を盛り上げることができるかどうかは、この「解説」「聞き手」役にも左右されるのではないでしょうか。見ている人が「なんでこう指すの?!」という質問を解説の先生にお聞きしながら、一局をなるべくわかりやすく伝え、ちょっと笑いもあり楽しんでいただけるような「聞き手」役を務めることができるのが理想ですね。
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