株式会社いつつ

将棋を教える 2016年11月7日

将棋指導者お悩みQ&A〜子どもたちに定跡を教えるタイミング〜

中倉 彰子

先日、いつつブログ「将棋指導者お悩みQ&A〜子どもどうしの感想戦〜」で子どもどうしの感想戦に大人(指導する人)がどれくらい踏み込むべきかというお悩みに答えさせていただいたのですが、子どもたちに将棋を教えるときのお悩みポイントはまだまだ尽きないことかと思います。

そこで今回のいつつブログでも、私と同じように子どもたちに将棋を教えているという方から頂いたお悩みにお答えしたいと思います。

前回同様どこまで皆さんのお役に立てるかわかりませんが、私が子ども将棋教室で体験したことをもとにお話したいと思います。

さて、今回のテーマですが「子どもたちに定跡を教えるタイミング」についてです(^ ^)

定跡は子どもたちにどのタイミングで教えるべきでしょうか?

基本的な将棋のルールや駒の動かし方を知っていることが大前提となりますが、定跡を教えるタイミングは子どもたちの性格に合わせてあげるのがいいかと思います。

子どもたちの中には、自由に指したいという子がいたり、定跡を覚えることにあまり抵抗がない子がいたり、将棋初心者の子どもだと、どうやって指したらいいのか分からないといった子もます。(個人的な心象では、男の子は自由に指したがる子が多く、女の子の方が比較的すんなり定跡を受け入れてくれる傾向があるように思います(^ ^))

私の場合は、定跡を覚えることにあまり抵抗がない子どもや、どうやって指したらいいのか分からないといった子どもには比較的早い段階で居飛車・振飛車戦法などの定跡を教えていますが、定跡にとらわれず自由に指したいという子どもたちについては、本人が自然に定跡を覚えたいと思えるタイミングが来るまで待つようにしています。無理やり定跡を覚えさせても、楽しいはずの将棋が苦行のようになってしまう危険性もありますからね。

私も今でこそ定跡を覚えてますが、子どもの頃は定跡を覚えるのが嫌で、実は定跡を覚えたのは妹より後でした(^_^;)

私が定跡を覚えようと思ったきっかけは、思い返せば、幼い頃、王様だけの父を相手に、妹と二人で対局を挑んでいたときのことです。私がやっていたのは端から順番に歩を上げていき、全部と金に成らせてから王様を捕まえに行くというなんとも効率の悪い戦法でした。一方妹はというと、角道をあけて角を成ったり、飛車先をついて飛車を「龍」に成らせて攻めるなどとても効率的に玉を詰ませていました。

これは、定跡とまではいきませんが、将棋の駒の中でも一番動きの大きな駒(馬と龍)をまず作り、その駒で玉を捕まるというセオリー通りの方法です。歩をチマチマと1枚ずつ成り、大量の「と金」を作る方法よりも、はるかに効率が良いですね。隣でみていた私は、子どもながらに「こんなに短い手数で勝てるんだ」と目から鱗だったのを今でも覚えています。

教える側としては、定跡が一番効率よく駒が動くことを知っているので、早く子どもたちに定跡を教えたいし覚えてもらいたいと思うところですが、子どもたちの性格や「覚えたい!」と思うタイミングを見計らう必要があるかと思います(むずかしいかもしれませんが・・。)。やっぱり子どもたちには、「楽しい」と思って将棋を指してもらいたいですからね( ´∀`)

他にも、子どもの将棋大会に合わせて定跡を覚えてもらうというのも一つの方法ではないでしょうか。

定跡を押さえていれば、子どもどうしの対局ですんなり負けることもほとんどないですし、何より、いつつブログで何度か書かせていただいているのですが、「大会に出場する」ということが、子どもたちのモチベーションアップに繋がります。「大会までに」といえば期間限定なので、普段定跡を覚えようとしない子も頑張って覚えてくれたり、集中力も継続しやすいように思います。

先日、いつつスタッフのお子さんもテーブルマークの子ども将棋大会に出場したのですが、大会に向けて一生懸命美濃囲いを覚えてくれました。

そして、私が子どもたちに定跡を覚えてもらう上で実践していることがあります。それは、子どもたちのやる気をくじかないことです。

定跡を覚えるというのは、子どもたちにとってとても難しいことだと思います。中々覚えられず途中で嫌になってしまったり、子どもたちの中には、せっかく覚えてもそのうち忘れてしまいそうだからと最初から覚えることを嫌がる子もいます。

何度も指さないと定跡を覚えられないということには変わりないのですが、私の場合は、丸暗記ではなく、1手1手に意味を紐付けて説明したり(例えば、「飛車は攻めの要になる駒なので玉のそばにいると危険。なので、玉とは逆の場所に置くよ」や「矢倉を作るときは、角を先に出してから玉を入れないと、後から入れなくなっちゃいますよ」などです(^ ^))、子どもたちが、多少違った組み方をしたり、手順を間違っても強く指摘しないなどの工夫をしています。

定跡は子どもたちの性格に合わせて教えるタイミングを見計らいましょう。
定跡は子どもたちの性格に合わせて教えるタイミングを見計らいましょう。

さて今回は子どもたちに定跡を教えるタイミングについてお答えさせていただいたのですがいかがでしたでしょうか?

駒の動き方やルールを覚えるだけでも将棋を指すことはできますが、子どもたちにより将棋を楽しんでもらうためには定跡を身につけ、棋力を着実に上げていくことが重要かと思います。

とはいえ将棋はとっても奥深いので、子どもたちが棋力を伸ばしていくには、色んな壁が立ちはだかることと思います。そこで子どもたちが壁にぶつかったときに、少しでもその課題を乗り越えやすいように、そして将棋を楽しみながら乗り越えていくことができるようにサポートするのが私たちの使命なのかなと思っています(^ ^)

この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

関連記事

いつつへのお仕事の依頼やご相談、お問合せなどにつきましては、
こちらからお問い合わせください。

メールでお問い合わせ