将棋を楽しむ 2019年4月12日
緊迫感の中で生まれるドラマ〜詰将棋解答選手権に行ってきました〜
3月31日、詰将棋解答選手権チャンピオン戦の大阪会場(大阪市立港区民センター)にいってきました。
2004年の第1回開催から今年で16回目を迎える同選手権。第2回には一般戦、その翌年には初級戦と新たなコースが設けられた他、もともと東京だけだった会場も全国各地に設置されるようになるなど、着実にその参加者数を伸ばしてきました(チャンピオン戦の会場は東京・大阪・名古屋の3会場)。
そこで今回のいつつブログでは、そんな歴史ある詰将棋解答選手権のこれまでの歩みと当日の雰囲気についてご紹介したいと思います。なお、今回は大阪会場の解説役を務められた浦野真彦八段(以下浦野八段)にお話を伺いました。
憧れの人に誘われて
–今回はお手伝いとしてこちらにこられているとのことですが、詰将棋解答選手権の運営にはずっと携わってきたのでしょうか。
浦野八段:詰将棋解答選手権は元々若島正さんが発起人となり始めたものです。若島さんから一緒にやりませんかと声をかけられたのがきっかけで、初級戦・一般戦の全国展開がスタートした第6回から運営に関わるようになりました。若島さんといえば、私にとっては憧れの人で、詰将棋の世界では神様のような存在です。神様に声をかけられたら断れないですよね。
答案を見るのが何よりの楽しみ
–実行委員を退任してなお、毎年こうして会場に足を運んでいるのも素晴らしいことだと思います。きっとそれだけ思い入れがあるんですね。詰将棋解答選手権を運営する上で心がけていたことはありますか?
浦野八段:今はサポートするだけですが、実行委員だった当時は初級戦・一般戦全参加者の答案用紙を見直すようにしていました。
–それはどういった理由からでしょうか。
浦野八段:1番の目的は、会場による採点基準の差を是正することで、基本的には救済のためですね。ちょっとした書き間違いに対しても会場によっては厳しすぎるところもあるので。あとは採点ミスの指摘です。いつだったか、×から〇になったことを伝えたら、正解と思っていたのに不正解にされて落ち込んでいた小学生が、親子で喜んでくれたと連絡がありました。こちらも嬉しくなりますよね。実行委員最後の年となる第10回は、初級戦409名一般戦299名合計で700名ほどの答案用紙を再チェックしました。
–700名は大変そうな気がします。
浦野八段:私はこの作業が好きで苦になりませんでした。たくさんの答案を見ていると中には面白い解答もあって楽しいですよ。特にお子さんの答案ですね。例えば、「銀」の字が「鉄」になっていて、銀の王手や銀の応手がすべて「鉄」。他にも印象的だったのは「寄」を「横」と書いてあって、符号の書き方が分からず自分なりに考えている姿が浮かんで心を打たれました。
–いつつの場合も、未就学のお子さんだと漢字を書くのが大変なので、矢印などで答えを示してもらったりしています。子どもたちが何かに一生懸命取り込む姿というのはどこか大人の胸を熱くするものがありますよね。
継続して参加してもらうことの大切さ
浦野八段:他にも、出題する問題の難易度には気をつけていました。事前に自分で解いてみて、簡単すぎないか、難しすぎないかということをチェックしていましたね。特に、初級戦の場合は、できるだけ0点を出さないようにと考えていました。参加してくれた方に毎年続けて来てほしいと思っているのですが、せっかく参加したにもかかわらず、1問も解けなかったら、嫌になりますよね。1問でも解ければ、次はもう少しと思ってもらえるかもしれません。1問しか解けなかったけど、毎年継続して参加していたら、今年は全部解けるようになったという話を聞くととても嬉しく思います。
–もちろん新しい人に参加してもらうということも必要ですが、毎年継続して参加してもらうというのは大切ですよね。そして、「できた」という成功体験が次に繋がっていくように思います。先ほども、廊下ですれ違った参加者の方が今年で3年目と話していました。
浦野八段:特にチャンピオン戦は常連の方が多いかもしれませんね。お互いがライバルというより、もはやみんなで立ち向かおうみたいな一体感のようなものが生まれている気がします。
–参加者の方、スタッフの方が一丸となることで、詰将棋解答選手が続いているのですね。
浦野八段:初級戦・一般戦の全国展開が軌道に乗ってきたので、第10回を機に若島体制から新しい実行委員会にバトンタッチして、私も委員をやめました。藤井聡太七段の影響か最近は参加者も急増して、実行委員会や各地方のスタッフは大変でしょうね。現在、初級戦、一般戦は全国で27箇所、こうして毎年続いているのは、参加してくれる方、選手権を支えてくれる皆さんがいるおかげです。
取材後記
詰将棋解答選手権チャンピオン戦は、2ラウンド制で、各ラウンドごとに39手詰以下の問題5問を90分以内に解答します。
毎年、プロ棋士、奨励会員、アマ強豪も参加することから注目度も高く(今年の大阪会場には、銀河戦7連勝中の折田翔吾さんが参加されていました)、とても緊迫感・緊張感のある雰囲気なんだろう予想していたのですが、実際目の当たりにして、改めて自分の今いるところがいかに真剣な場所なのかということを実感しました。
ちなみに、浦野先生に今年の優勝候補についておききすると、5連覇のかかった藤井聡太七段の名前をあげつつも、解答の書き間違いといった細かいミスは誰にでもありうるので、誰が優勝してもおかしくないということでした。取材終わりにスマートフォンで前半戦の中継を確認してみると、まさに浦野先生が言われたような展開になっていたので驚きました。結果としては、藤井七段が見事逆転優勝を飾ったわけですが、改めて「最後まで何が起きるか分からない」というチャンピオン戦の醍醐味を味わうことができました。
最後に、39手詰はさすがに難しいけれど、1手詰・3手詰くらいまでは、いつつの子どもたちもできるようになってきているので、来年の初級戦にはぜひ参加してもらいたいなぁと感じました(^ ^)
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