株式会社いつつ

将棋を学ぶ 2018年5月17日

将棋初心者の子どもたちのつまずきポイント①駒の価値

中倉 彰子

まずは指すためのテクニック

駒の動きはわかった二歩などの禁じ手もなんとなく覚えた。ようやく将棋が指せるようになったので、「よし!次は戦法や囲いを覚えてもっと強くなるぞ!」と思われるかも知れません。

確かに戦法や囲い(玉を守るためのお城のようなもの)は知識として覚えることができるので、将棋の基本的なルールの後に解説している書籍もあります。

特に、囲い(玉を守るためのお城)は子どもたちに大人気。作ることで、達成感を感じることもできるので、まずは囲いを覚えてくる子もいます。ただこの段階で囲いを覚えてしまうと、初心者どうしで「穴熊*1」。これだと、お互いなかなか相手の玉を捕まえることができず、いつまでたっても対局を終わらせることができません。

将棋はあくまでも相手の王様を捕まえるゲーム。囲いが完成して「やった〜!」で終わってしまっては、その先にある最終目標にはたどり着かないですよね。

なので私は、戦法や囲いについて学ぶ前に、子どもたちにはまず「指す(駒を上手につかう)テクニック」を身に付けてほしいと考えています。

駒の価値

さてここからが今日の本題です。実は、「指す(駒を上手につかう)テクニック」は色々あるのですが、まずは「駒の価値」について覚えてもらいたいと思います。「駒の価値」というと子どもたちに「勝ち?」なんて聞き返されたりしますが(笑)、「駒の価値」とは要するに「駒の大切な順番」のことで、駒の価値を覚えることで、「価値の高い方の駒をとる」練習につながります。

そこで私は

玉 :これは取られたら負けだからぜったい大事な駒だよね
飛 :これは攻めの主役の駒。たくさん動けるからね。
角 :飛車から少しだけランクが落ちるけどこの駒も「大駒」だから。
金 :次にこの駒。守りにも、相手の駒をつかまえるときにも便利な駒だね。
銀 :金からさほどランクは落ちないけど、攻めにも守りにも使える駒だね。
桂 :ジャンプできる唯一の駒だね
香 :桂と香は価値にあまり差はないけど一応この位置。
歩 :1つしか動けない駒なので、最後。

と1つ1つの駒の特徴(?)と合わせて、8種類の駒を価値の高い順番で大盤に縦一列で並べて子どもたちにみせるようにしています。

「駒の大切な順番」を覚えるだけであれば、例えば図1のような簡単な問題で初心者の子どもたちでも十分理解してくれます。

こちらの記事では、図入りで価値について説明しています

価値の高い方の駒をとる

駒の価値が身についたら、今度はもう一歩踏み込んで、「価値の高い方の駒をとる」練習をしてみましょう。

下記は実際に子どもたちの対局で出た局面です。

今回のつまずき具体例

歩と銀の交換をしたが、それぞれ1つずつの交換なので満足してしまった。

このままだと4四の銀が4三の成銀に取られそう
このままだと4四の銀が4三の成銀に取られそう
5五に銀を動かし、成銀から逃げる。
5五に銀を動かし、成銀から逃げる。

上図は将棋教室で私が5歳の女の子と6枚落ちで指していた時に実際に出た局面です。本来ならば、☗4五銀と逃げるのが良いのですが、なぜかその女の子は、☗5五銀と指しました。

「なんで☗5五銀を指したの?」と聞くと「歩で銀を取られても、後から飛車でとり返せる」とのこと。確かに、☗5五銀と指すと、そのあと△同銀☗同歩と自分の飛車で相手の歩を取り返すことができますよね。

しかし、よくよく考えてみると、結果的には、女の子が歩、私が銀となり、女の子にとっては損な駒の交換になってしまいました。「先生は銀、こずえちゃんは歩だね。どっちが得したかな?」と聞くと「銀!」と答えていたので、駒の価値は理解はしているのですが、それを実戦で活かすとなると、将棋初心者の子どもたちには、また1つハードルがあるようです。

ただ、彼女は先月からいつつの将棋教室にきて駒の動かし方や将棋の基本的なルールを覚えたばかり。「銀を逃げようとしたのはえらいね」とほめました( ^∀^)

意味を理解することが大切

「駒の価値」や「価値の高い駒をとる」という将棋のテクニックは、知識とは異なりどのような局面でも応用することができます。将棋における各局面での可能な指し手は約80通りと言われています。そのような中で全く同じ局面になる可能性は、入門者の場合はほぼないと言えます。

ですので、知識として丸暗記をする戦法や囲いよりも、テクニックを覚えていくほうが汎用性が高くなります。

以前定跡を教えようとしたときに(これは大人の方ですが)「このように進めます」と伝えても、「え、でも先生、相手がこのようにこなかったらどうするんですか?」と一手進める度に質問攻めをされて困ったことがありました、^_^;笑

定跡も知識として丸覚えするのではなく、意味をちゃんと理解しないと実際には使えませんね。

もちろん知識を増やしていくことも大切なのですが、丸覚えをした手順は実際に相手の指し手の手順前後でもかわってきてしまいます。ですので、戦法や囲いといった知識を単純に増やすよりも、1つ1つ、「なぜこのように指すと上手くいくのか」といった意味をしっかり理解し、局面に合わせて応用させることの方が大事なのです。

料理に例えると、「切る」「焼く」「煮る」のようなテクニックを覚えると、どんな食材でも一応は調理できますよね。調理実習で「ゆで卵」を習います(私の遠い記憶では確か最初の家庭科の調理実習がゆで卵でした・・。)。その後本当に「ゆで卵」」しか作れなかったら、ちょっと・・ですよね(^_^;)。ゆで卵を作ることで「ゆでる」という調理法を学び、野菜なども「ゆでる」ことができるようになることで、料理のバリエーションも増えるわけです、笑

*1) 穴熊・・・・囲いの一種。クマ(玉)が穴に入っているようなイメージからこの名前がつきました。^戻る

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「駒の価値」をはじめとした、駒の動かし方が分かるレベルからステップアップするための、将棋を指す(駒を上手につかう)テクニックは「はじめての将棋手引帖2巻」で詳しく解説していますのでぜひご活用ください( ・∇・)

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この記事の執筆者中倉 彰子

中倉彰子 女流棋士。 6歳の頃に父に将棋を教わり始める。女流アマ名人戦連覇後、堀口弘治七段門下へ入門。高校3年生で女流棋士としてプロデビュー。2年後妹の中倉宏美も女流棋士になり初の姉妹女流棋士となる。NHK杯将棋トーナメントなど、テレビ番組の司会や聞き手、イベントなどでも活躍。私生活では3児の母親でもあり、東京新聞中日新聞にて「子育て日記」リレーエッセイを2018年まで執筆。2015年10月株式会社いつつを設立。子ども将棋教室のプロデュース・親子向け将棋イベントの開催、各地で講演活動など幅広く活動する。将棋入門ドリル「はじめての将棋手引帖5巻シリーズ」を制作。将棋の絵本「しょうぎのくにのだいぼうけん(講談社)」や「脳がぐんぐん成長する将棋パズル(総合法令出版)」「はじめての将棋ナビ(講談社)」(2019年5月発売予定)を出版。

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